第75話

突然だが話は「ダンジョンに星が流れた日」の翌日に戻る。


三崎の尽力で13ヶ所の特級、および1級ダンジョンのスタンピードが完全に鎮圧され日本中が歓喜に湧いている中で首相官邸に集った鷹匠をはじめとする日本のリーダーたちは非常に困った顔をしていた。


「さて諸君。ダンジョンの安全確認は完全に完了したとの報告が現場から出揃った。さらに各ダンジョンのコアも無事らしい。これで本件は本当に無事に一件落着だ!と言えれば良いんだけどね。さて、どうなってる??」


鷹匠総理に話を振られたのは外務大臣。


「神の杖について各国の大使館経由でものすごい数の抗議の連絡が来ていますよ。各国からの首脳級の会談依頼も怒涛の勢いで来ていますが、現状では災害復興を優先すると言って断っています。しかし稼げる時間も多くはないかと」


彼は疲れを滲ませた表情でやれやれと首を振りながら、手元の資料を確認して鷹匠に告げた。


さらに続けて話をし始めたのが軍務大臣。


「スタンピード前後から周辺国から領空への接近が後をたたないです。更に神の杖の登場後はその数・頻度が共に増えていますね。我々の方も立て続けにスクランブル発進を続けています。この状態、正直言っていつ偶発的な戦闘が発生してもおかしくないレベルで危険です」


こちらも連日の対応にやや疲れた表情を見せながらも、張りのある声で鷹匠へ告げた。


その他の大臣や秘書官達からも続々と報告を受ける鷹匠。


彼はしばらく腕組をして目をつむりそのまま考え事をしていたが、


「やはり今回はさすがにこのまま逃げ切るのは無理だな。まずアメリカには味方になってもらおう。三崎くんに確認して何かしらの新型武装をアメリカに供与する。これで彼らにはせめて消極的賛成になってもらおうか」


この決断の後、鷹匠は三崎とアレコレ相談してアメリカ側へ供与するロマン武器の検討を実施した。


日本の国際的な立ち位置を守るというかなり高度なお題であった事から、2人は最終的にトルーパー試作2号機をアメリカ側へ供与することに決めた。


そして三崎とアルファはOSから大事な機能を削除したり、一部の主要なハードウェアを破棄した上で最低限動くレベルにまで機体をデチューンしてからトルーパー試作2号機を鷹匠へ引き渡した。


これがそのまま厚木基地に運ばれ、そしてその日のうちにグアムへ輸送されたのだ。


なおこの取引の結果、緊急に開催された国連会合においてアメリカは日本の主張に消極的ながらも賛成し「あの状況であれば国が滅んでいてもおかしくなかったので致し方なし。ただし神の杖の廃棄は絶対条件」というスタンスで日本の立場を支持した。


これを見た各国は色々と悟った後、自国も実利を得るために再び日本と水面下で交渉が継続されることになり、表向きの日本の立場はそこまでヒドイものとはならずに済んだという背景があった。


一方でその日のうちに厚木基地からグアム基地へ空輸されたトルーパー試作2号機は徹底的な調査を受けることになる。


その調査を指揮した者こそがウォード・ドーア。


DARPAが誇る天才にして異端児、そして合衆国大統領テイラー・ローワンを持ってして問題児と言わしめる曰く付きの青年だった。


「よしよし。やっぱりOSもハードウェアもだいぶ削られてるけど、この程度の妨害工作しかしてないとは俺もアメリカも舐められたもんだな、三崎さんよ」


『システム側の障壁も全て突破しました。OSを再構築します』


「おう、オメガ、頼むよ。各種ハードウェアの方もグアムまで持ってきてたダンジョン素材でなんとかなりそうだ。3日で動くようにするぞ」


そして実際に彼らはトルーパー試作2号機がグアムへ運び込まれてからたったの3日で元のように動かせる状態を実現していた。


三崎が首相公邸でごろごろしながら気ままに色々なロマン武器を設計し、ファクトリーで自動建造している間の話である。


「たぶん理論値としてはこれで動くはずなんだけどな。魔素濃度的にダンジョン外では動かせないのがもどかしい」


『そうですね。ただ既に設計図のデータも本国にデータは転送済みですし、実機はテストがてら日本の鬼ヶ島にでも持って行って良いのでは?』


「確かにな。じゃ、ちょっと色々調整してから行きますか」


その表情は非常にイキイキとしており、無邪気ないたずら小僧のようだったとは格納庫内の別のエンジニアの話である。



・ ・ ・



そして機体の塗装や最終整備、輸送機の準備をしているうちに三崎がダンジョンアタックの配信を開始したのをグアムで確認したウォード。


これ幸いとばかりに実機テストの相手を三崎に定めたウォードは出撃のタイミングを見計らい、三崎達が本格的に上陸に向けた作戦を開始した段階でグアムから特殊な輸送機で出撃。


グアムからは3時間弱で鬼ヶ島の近くの海域まで到着しており、戦況を伺っていた。


そしてアメリカの特殊部隊が蹴散らされた段階でいよいよ出撃することにしたウォードは輸送機のハッチを開きながら、


「このままハッチから機体を落としてくれ。慣性でダンジョンエリア内に入れるから、そこからは機体が起動するはず。機体投下後は輸送機は引き続きステルスモードで近海で待機よろしく」


ウォードからの通信を受けた輸送機のパイロットはその内容を確認した上で、ダンジョン海域ギリギリまで輸送機を近づけた。


「よし、じゃあオメガ、試作2号機の全機能の起動を待機。ダンジョン内に入り魔素濃度が既定値を超えたら一気に起動よろしく」


『承知しました。ちなみに失敗したらそのまま海に落ちますね』


「ははっ!!実機テストはそれで良いんだよ!!!!ウォード・ドーア、トルーパー試作2号機、出るぞ!」

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