第65話
大型の水棲モンスター、クラーケンをパイルバンカーで貫いて沈めた後、三崎はわだつみのデッキに戻り一休みしていた。
「アルファ、周囲の状況はどうだ?」
『周辺5km圏内にモンスターは感知できないですね。周囲のモンスターは概ね狩り尽くしたようです』
「おっけ。うーん。そろそろ上陸するべきか、あるいは別の海域にまで出向いてダンジョン海域全体でモンスターを狩り尽くすべきか…」
三崎たちは鬼ヶ島の東岸から約10km地点からダンジョンアタックを開始していたため、島を中心に考えて東側の海域は概ね安全が確保された状態になっていた。
一方で西側の海域は手つかずであり、仮に上陸作戦中にダンジョン海域西側から水棲モンスター群が攻めてきた場合には二正面作戦になりかねない状態だった。
『悩ましいですね。林艦長に連絡つなぎましょうか?』
「そうしてくれる?」
『承知しました。こちらアルファ。アルファ2、林艦長に通信を繋いで下さい』
『こちらアルファ2。承知しました。通信開きます』
「こちら林だ。どうした、三崎?」
三崎は先程アルファと話していた悩みポイントを林艦長にも相談した。林艦長も当然それについては考えており彼もまた悩んでいたようだった。ちなみにこの会話も配信に載せたままである。
”ねぇ、これ配信してていいの?w”
”気になったのはコレで何回目なのか?w”
”ここまで情報公開してくれると疑心暗鬼とか陰謀論とかもクソもないよなw”
”見てて楽しい、清々しいから問題なしw”
”けど確かにこの状況は悩ましいよな”
「ということで林艦長、どうしましょうか?」
「そうだな、こういう場合は戦略目標次第で当然打つ手が変わるんだよ。例えば戦略目標がいち早い島の確保であれば、ある程度のリスクを負ってでも早く島に上陸する。一方で今回は未知の対象の調査任務を兼ねつつ、島への上陸、確保が目標だ。したがって現状では安全の確保を優先しつつ、じっくり攻める」
「確かにそれはすごく納得感高いです。ということは西側海域のモンスター群を先に殲滅してダンジョン海域全体の安全を確保してから上陸するという感じですか?」
「その通りだ。それにこのダンジョンのモンスターリポップの周期もまだ不明瞭だからな。一度ダンジョン海域全体のモンスターを狩り尽くしてから生態系も把握したい」
”すごい、戦略ゲームのチュートリアル画面見てるみたいw”
”それなw”
”林艦長の教官感がすごいw”
「了解しました。じゃあダンジョン海域西側の殲滅に向かいますね」
「ん?三崎も一度艦内に戻って休んだらどうだ?」
「いえいえ、また対潜戦闘だと配信映えしないですし、何より俺も別で使いたいものがあるので先に行ってます!」
”お?w”
”これはw”
”この状況で配信映えを意識する男w”
”余裕ありすぎだろw”
”スタンピード配信もすごかったけど、こういう余裕がある方が個人的には好きw”
”次は何が来るんだ?w”
リフボードで空を駆け、パイルバンカーをぶっ放したままのテンションで三崎は自重を捨てて突っ走る。
「先程リフボードで飛んでる時にこのダンジョン内空域の魔素濃度の確認も出来てコレが使えることがわかりましたので」
クラーケンとの戦闘中、三崎はただ自分のテンションにまかせてトリックを決めるためだけに無駄に空中でアクロバティックな飛行を行っていた訳ではない。
とあるロマン武器が使用可能かを判断するために空中の高度や位置における魔素濃度や風の流れも同時に観測・測定してデータを集めていたのだった。
(途中からリフボードが楽しすぎて素で観測・測定を忘れてトリックをばんばん決めており、アルファがこっそりフォローしていたのはご愛嬌)
『マスター、準備はできていますよ。魔素濃度も既定値を超えています』
三崎のテンションに引っ張られる形で、まるでいたずらが成功したかのようにアルファも楽しそうに告げた。
「ということで林艦長、俺とアルファは先行して西側海域の制圧に向かいます」
そう林艦長に伝えた三崎は決めポーズをしながらわだつみの甲板上で空を指差し、
「アルファ、じゃあ行くぜ!来い、浮遊航空艦ほあかり!!!!!」
三崎の合図とともにわだつみから少し離れた空中高度500m程度の場所に大きなゲートが出現した。
そしてそのゲートからゴゴゴ…という空を震わせる重厚なエンジン音と共に、純白の船体を太陽の光に煌めかせながら大型航空艦が姿を現した。
”おおおおお!!!???”
”なんかエゲつないものが出てきたw”
”これはもう、なんと言えばいいのかw”
”えw”
”トルーパーとかヘビィ・キャバルリィが浮いてる時も大概だったけどw”
”うーん、これはもうw”
高度500mの空に登場したのはわだつみとほぼ同じサイズの全長200m程度の浮遊航空艦ほあかり。
その船体のサイズが空に存在するだけでも異常事態だが、その船体はその存在を誇示するように空中で静止していた。
そしてその浮遊航空艦へ、わだつみの甲板からリフボードで飛び出した三崎が向かう。
海から空へ。
リフボードの魔素エンジンから光の粒子を煌めかせながら一直線に高度500mまで舞い上がる三崎。
青い夏の空を割るように一筋の風が駆け抜けた。
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