第61話

大型潜水空母わだつみが鬼ヶ島方面へ進み始めてから数分後。ブリッジ内にアラート音が鳴り響いた。


『進行方向2時の方角に水棲モンスター群を確認しました』


「数は?」


『およそ150程度です。各個体は2~3m程度。サメ型のモンスターですね』


一般的なダンジョンにおけるモンスターのサイズ感は概ね人間と同程度から大きくても10数メートル程度だ。


伝説のモンスターと呼ばれる超深層クラスのモンスターたちでもダンジョンのサイズという制約条件から20mから30m程度のサイズに基本的には留まる。


それらのサイズ感や数を考えると、2~3mサイズのモンスターが150体も、しかもダンジョンアタックを開始して早々に出くわすというのは従来のダンジョンの常識を余裕で破壊する難易度であった。


「さすが地上開放型ダンジョンってところだな」


『そうですね。このサイズ、数ともに閉鎖空間のダンジョン内ではなかなかお目にかかれないです』


「ま、スタンピードに比べたら全然マシだけど」


そう言いながらごそごそと配信の準備を進める三崎。事前に林艦長などの承認は得ており、今回もダンジョンアタックの様子を配信するつもりだった。


なお第6回目や第7回目の配信で三崎が早々に配信を切り上げたのは、軍や警察から派遣されてきているメンバーたちを配信に映さないため。


これらのメンバー達は基本的に特殊部隊の所属であるため、その顔や個人情報が公知になるのは望ましくないからだった。


一方でダン研のメンバーや、わだつみ、それにその他のロマン武器たちを配信すること自体は事前に鷹匠からの合意も得られている。


むしろ鷹匠からは、軍や警察のメンバーや通常の兵器以外は積極的に配信することを推奨されていた。


ここで三崎が引き続き圧倒的な能力を見せ続けることが他国に対して大いに牽制になりうる上、三崎が鬼ヶ島へ向かっており配信もしているとなると他国もむやみにちょっかいをかけてこないのではないか?と期待したためである。


いずれにせよ三崎はハンディカメラを佐野に渡しつつ、配信をスタートした。


「ということでリスナーのみなさん、こんにちは。ダン研 オフィシャル 広報チャンネルです。連続しての突発配信すいません。第8回目の配信を開始させていただきますね。本日も潜水艦の中からお送りさせていただきますが、食レポじゃなくてバトルをレポートしていきます」


”またいきなりw”

”カレーは完全にテロでした”

”今回はバトルなのねw”

”通知が気になって仕事が手につかないw”


「現状をさらっと最初にご説明します。僕たちは鬼ヶ島に向かってダンジョンアタックを開始しました。現在は鬼ヶ島の沖合約10km地点です」


”お、いよいよ”

”マジなやつですね”

”毎回思うけどコレって配信していいやつなんだw”


「これから鬼ヶ島周辺海域の水棲型モンスターを駆逐していきつつ、周辺海域がある程度安定したら島に対して強襲揚陸をかけます。本日のゴールは鬼ヶ島に拠点を設営するところまでですね」


『マスター、お話中すいません。水棲モンスター群が有効射程範囲に入りました』


”配信開始して1分でいきなりバトルw”

”これもまた最初からクライマックスシリーズw”

”水棲モンスター群w”


「おっけい、じゃあリスナーの皆様は本日も楽しんで下さいね!」


三崎の説明が終わると同時に配信画面が毎度おなじみのマルチアングルに切り替わった。


佐野がハンディカメラで撮影しているわだつみ内のブリッジの様子、事前に展開していた偵察用小型潜水ドローンからの映像、静止軌道衛星からの海上の様子を写した映像を見ることができた。


”相変わらずの配慮w”

”これ本当に見やすいよなぁ”

”わくわくが止まらないw”


「アルファ、魚雷1番から8番まで全弾発射準備」


『承知しました。…魚雷発射管1番から8番まで装填完了。…注水も完了。いつでも発射可能です』


「目標、前方の水棲モンスター群。魚雷全弾発射」


『1番から8番発射します』


わだつみの側面部に設置されていた魚雷発射管から8発の魚雷が発射され、モンスター群に向かって一直線に進む。


そして数秒後。盛大な爆発を連鎖的に引き起こした。

爆発の衝撃波でわだつみの船体もやや揺れる中、


『着弾を確認。敵影、過半数の消失を確認。残個体約50体です。引き続き本艦へ接近してきます』


「魚雷を再度装填作業進めつつ、戦闘支援型UUV(無人潜水艇)を10機射出。本艦も通常エンジンから魔素エンジンに動力切り替えた上で最大船速で突っ込むぞ」


『承知しました。UUV、後部格納庫から10機射出完了。本艦のエンジンも通常エンジンから魔素エンジンに切り替えました。搭乗員は着座してシートベルトを締めてください』


艦内にアラートが響き渡り、ぐっ、とした加速度を感じるとともにわだつみのスピードが明らかに上昇した。潜水艦が水中で出して良いスピードではない。


なおこの速度を出すと波の抵抗の影響で爆音を周囲に撒き散らすことになるため、せっかく潜水艦で潜んでいるメリットが皆無になるという別の話がある。


だが今回はそもそも魚雷やらUUVやらで散々騒音を撒き散らしていたため静音性もへったくれもない状態ではあった。


『UUV群含めて全艦、敵影を包囲する形で配置に付きました。残存モンスター、水中音響兵器ローレライの射程に入ります』


「ローレライ、起動」


三崎の号令と共にわだつみのノーズ部分が解放され、スピーカーに近い形状のユニットが展開された。


周囲のUUVでも同様の装備が展開される。


『水中音響兵器ローレライ、本艦含めて11機全て起動しました。いつでもどうぞ』


「ターゲットは残存個体。出力最大」


その直後、わだつみを中心にUUVを含めた11隻から指向性のある音波が出力され、モンスターたちは一瞬で消滅した。

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