第60話

ただカレーを食べるだけ(ただし潜水艦の中で、ダンジョン産の高級食材で作った、激ウマな海軍カレーを)という謎な食レポ配信を三崎が30分ほどで切り上げた翌日。


いよいよわだつみは鬼ヶ島からの半径10km圏内の海域にアタックしようとしていた。


「それではこれよりダンジョンアタックを開始する。総員、第1種戦闘配置につけ」


林艦長の号令のもと各自がそれぞれの持場につく。と言っても現在わだつみに乗船しているその多くが強襲揚陸のためのメンバーであり、彼らの殆どは待機ルームで待機している。


わだつみのブリッジには林艦長の他、比較的手が空いている衛生兵の面々や、三崎に佐野、生田、そして軍と警察のリーダーが集まっていた。


それぞれがブリッジにある座席に思い思いに着席した。


「よし、ではここから先の操艦は三崎とアルファに任せる。頼むぞ」


「OKボス」


『OKボス』


林艦長から命令を受けた三崎とアルファは同時に回答した。その回答を聞いた林艦長は一瞬微妙な顔をしたもののまぁ良いかと気にしないことにした。


林艦長の戸惑いもさることながら、三崎もそしてアルファも林艦長?という呼称に全く慣れておらずなんと回答すれば良いのかよく分からなかったのである。


それはともかくとしていよいよダンジョンアタックが開始された。


「アルファ、全速前進。まずは鬼ヶ島から半径10kmぎりぎりの海域を一周ぐるっと回って様子を確かめよう」


『承知しました。鬼ヶ島から半径10kmのダンジョン海域外縁部を潜航したまま全速前進します』


「たのむ。あとは偵察用小型潜水ドローン群も順次展開してくれ。島を囲む形で包囲網を形成する」


『承知しました。偵察用小型潜水ドローンも順次展開していきます。多少の誤差は出ますが約1kmごとに1機ずつ、計100機展開します』


わだつみが鬼ヶ島から半径10km内に突入した瞬間、いつもダンジョンに入った際に感じるゾワリとした違和感を全員が感じた。


「これ、本当にダンジョンの中なんだな」


『そうですね、魔素濃度が一瞬で急激に跳ね上がりました。この地点で既に平均的な1級ダンジョン下層部よりも濃度が高いです』


「そこまでか。ちなみに海流とかはどんな感じ?」


『海流や波はこれまでと大きな差がないですね。本当に急に魔素濃度だけが切り替わった感じで非常に不思議な空間です』


三崎とアルファのやり取りを聞いていた潜水艦内の各メンバーもすごく不思議そうな顔をしながら周囲の環境を確認していた。


そのまましばらくは何事もなく時間が過ぎる。


そして約2時間後、鬼ヶ島の半径10km地点をぐるりと周回してきた三崎たちは最初にダンジョン海域に突入してきた場所に戻ってきた。


偵察用潜水ドローンも無事に配置することができ、各地の地形や海流のデータを取得する体制も整った。


さらに各地のドローンのソナーをかけ合わせることでモンスターたちの位置も大まかに推定することが可能となってきた。


「アルファ、周辺海域の地図や海流データのアップデート、行けそうか?」


『はい。現在対応中なので少々お待ちください。静止軌道衛星からの観測データや周辺の艦隊からのデータも掛け合わせているところです』


「おっけい、ということで艦長。もう少しで準備が完了します」


「承知した。それではアルファの方で周辺海域の地図や海流データのアップデートが完了したら島に向かって進もう。それまでは各自第2種戦闘配置で待機」


そして数分後


『マスター。全てのデータの処理が完了しました。海底地図まで含めて可能な範囲でアップデートしました』


「さんきゅー。なんか特記事項あったか?」


『そうですね。3点ほど報告があります。まず1点目。やはり大型の水棲モンスターらしき影を観測しました。推定50mから100mのサイズで、人類が遭遇した史上最大のモンスターになりそうです』


「えげつないサイズだな…それが1点目なのね」


『はい、これでまだ1点目です。2点目はモンスターらしきものの数ですね。50メートルを超えるような大型サイズの個体はおそらく10体もいないと思われますが、数メートルサイズの水棲モンスターはまるで魚群のように大量に観測できました』


「なんというか、2点目もなかなかえぐいな。で3点目は?」


『こちらはダンジョン海域外になるのですが、潜水艦らしき人工物を3隻確認しました』


「それも意外と見つけられるものなのね…」


『いえ、通常のソナーでの発見は難しいかと思われます。私のほうで怪しいなと思った箇所がいくつかあったので色々解析かけてみたら見つかりました』


「おっけー、さんきゅー。ということで艦長、どうしますか?」


「そうだな、潜水艦の話は秘匿回線を使って周囲に展開している艦艇の方に教えておいてくれ。我々の方はこのまま鬼ヶ島に向かってアタックする。まずは大型の水棲モンスターとやらを確認しに行こうじゃないか」


「了解しました、じゃあここから本腰入れていきますか。アルファ、改めてバトルモードに移行。いつでも魚雷を打てるように準備を頼む」


『承知しました。本艦はこれよりバトルモードに移行します』

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