第59話

今回の鬼ヶ島へのダンジョンアタックに際して三崎は鷹匠にいくつか依頼を出していた。


その中の一つが「軍や警察からの深層探索者の派遣」である。


もちろん鬼ヶ島自体が難易度不明で攻略難易度が非常に高い事が想定されるダンジョンであることも理由の一つではあったのだが、ただの調査だけで良いのであればダン研の深層探索者のみでも対応できないことは無い。


三崎が、さらに鷹匠も懸念していたのは「対人戦」である。


軍からの事前の報告で既に鬼ヶ島で複数の国家が入り乱れた遭遇戦が発生していたことも三崎たちは当然把握していた。


さらにその後も周辺海域に留まったままらしい、なんなら補給も来ているようだということも。


それらの情勢を踏まえて対人戦が発生する可能性も高いと考えた三崎はその道のプロである軍や警察の応援を鷹匠に依頼したのであった。


そして八丈島に到着した三崎を出迎えたのが軍の特殊作戦群から派遣された6名、警察のSATから派遣された同6名の計12名の深層探索者達だった。


この12名にくわえて、三崎、佐野、生田の計15名もの深層探索者が集結していた。この面々での顔合わせをした際に全員が鷹匠の本気度を認識した。


さらにもう一つ。三崎が鷹匠に依頼していたのは「わだつみを運用するための人員」だ。


具体的には特に衛生兵と給養員(調理員)である。


今回のダンジョンアタックでは不測の事態も想定され、かつ活動期間も未定。さらに母艦が潜水艦であることから閉鎖空間での生活も予期されるため医療と食事は非常に重要だった。


ここも三崎の依頼通り衛生兵が2名軍から派遣されてきた。しかも2名ともに下層探索者のライセンスを保有する超エリートだった。


さらに給養員(調理員)についても軍から1名派遣されてきており、三崎が驚いたことにこの調理員も下層探索者のライセンス持ちだった。


彼曰く「ダンジョン飯」を自分でも作ってみたくて頑張っていたら気づいた時には下層探索者になっていたらしい。


その境遇や考え方の近さから調理師の彼と三崎が固い握手を交わしたのはまた別の話。


そして最後に。三崎を最も驚かせたのは、林所長とダン研 第2課 課長補佐の木原 恵の登場だった。


指揮権の混乱を危惧した鷹匠総理の肝いりで林所長がこのグループの長として指揮を取ることになったらしい。


なんでも林所長は軍の予備役の資格も持っていたらしく、特務大佐として大型潜水空母わだつみの艦長としての登場だった。


林所長には学生時代からお世話になっている三崎だったが、改めて「この人は一体何者なんだ?」状態である。


ダン研 第2課 課長補佐の木原 恵は三崎と佐野の同期であり、今回は衛生兵としての参加だった。


彼女は三崎と佐野の同期ではあるものの修士卒でダン研に就職しており、20代での課長補佐ということでかなりのスピードで出世街道を驀進している2課のエース職員である。


「ダンジョンに星が流れた日」に総理公邸で三崎を治療したのも彼女であり、三崎との付き合いも長いため今回の遠征に参加することにしたらしい。


これらの総勢20名が大型潜水空母わだつみに乗船するメンバーであり、三崎とともに鬼ヶ島へ鬼退治に臨むことになる仲間であった。


ーーー


全員がわだつみに乗り込み八丈島沖を出発して約一日。


改めてこの時間では全員が潜水艦の操艦に慣れるために八丈島から鬼ヶ島までの太平洋を遠回りに航行していた。


操艦といっても基本的にはアルファがほぼ全ての操作を実施してくれるためほとんど自動運転に近い形ではあるのだが、そもそもわだつみに乗り込んだ20名全員が潜水艦は初である。


その環境に慣れること、そして初見のメンバー同士の親睦を深めることが主な目的となっていた。


ただし念のためアルファに何かあった場合に備えてある程度の操艦方法は全員がしっかりと記憶していた。


その習熟度を確認した林艦長(兼所長)はいよいよ明日には鬼ヶ島の半径10km圏内に突入し、ダンジョン海域へアタックすることを決めた。


そして時間は夕方の18時を回った頃。


翌日からのダンジョンアタックに備えて今夜は英気を養うために例のアレが夕食として出されると聞いた三崎は突発的に配信することにした。


「ということでリスナーのみなさん、こんばんは。ダン研 オフィシャル 広報チャンネルです。昨日に続いての突発配信すいません。第7回目の配信を開始させていただきますね。本日は潜水艦の中からお送りさせていただきます」


”急に通知が来たと思ったらw”

”潜水艦の中からってw”

”電波とか通信とか大丈夫なのかよw”


潜水艦内ということで今回は撮影用ドローンが使えなかったため、佐野にハンドカメラでの撮影を依頼していた。


なお通信に関しては複数の小型潜水ドローンを経由して衛星経由で通信を取ることで、わだつみの位置を補足されないように対処していた。


そんな無駄に手が混んだことまでして三崎がしたかったのは


「はい、ということで今回の配信はこれ。潜水艦の中で食べる海軍カレー。しかもダンジョン産の高級食材バージョン。これもまたロマン」


カメラに映し出されたのは三崎の手元にあったカレー。そのカレーからは湯気が立ち、非常に食欲をそそる香りが立ち込めていた。


”こいつ!!w”

”あかん、飯テロきたw”

”ダンジョンでバトルかと思って急いできたらカレーw”

”確かに潜水艦の中で食べる海軍カレーはロマンだなw”

”しかもダンジョン産の食材?w”


「ということでいただきます」


早速スプーンですくったカレーとごはんを口元へ運び、ぱくりと食べる三崎。その瞬間


「んんんんーーー!!!」


どこからどうみても旨いやつじゃん的なリアクションの三崎を見たリスナー達は思った。今晩の夕食はカレーにしようと。


その日、ウーバーイーツではカレーの注文が殺到し、各地のスーパーではカレールーが品薄になり、そして軍の通販サイトでは海軍カレーのレトルトパックが過去最高の売上を記録した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る