第51話
20時23分。六本木ダンジョン地上部開口部付近。
『三重県の伊勢ダンジョン、高知県の四万十ダンジョン、鹿児島の霧島ダンジョン他複数の特級および1級ダンジョンでダンジョン震が観測されました』
アルファからの報告を聞いた三崎を始めとした現場の全員、そして配信を視聴していた全てのリスナーが沈黙していた。
たった1か所、六本木ダンジョンのスタンピードだけでも鎮圧にこれだけのパワーがかかったのだ。
それが複数箇所。しかも日本全国の各地に散らばる形で。
どう考えても対処できる方法がなかった。
痛いほどの沈黙が続く中、
『マスター、林所長から音声通話です』
「…繋いでくれ」
「林だ。三崎、聞こえるか?」
「はい。こちら三崎です。聞こえます」
「よし。配信は見てたよ、というか今も見てるが…状況は理解しているな?」
「はい、先程アルファから聞きました」
「あぁ、詳しい状況を説明する。想定されていた最悪の事態が発生した。西日本の太平洋沿岸部を中心にして13か所の特級、および1級ダンジョンでダンジョン震が確認された。それぞれのダンジョンでは最短30分以内に地上にモンスターが氾濫する」
「13か所…」
「そうだ。これは正直どうしようも無い。既に軍も警察も各地方の部隊が展開を始めているがこのままだと未曾有の大災害だ。最悪西日本が全滅する」
”やばい、本当にどうしようもなくなったら心って穏やかになるのな”
”みんな今までありがとう…”
”今日はジェットコースターすぎてもうワケワカメ”
”やっぱこれ夢だろw”
六本木ダンジョンのスタンピードを被害ほぼゼロで抑えるという偉業の直後だけに、揺り戻しの反動で日本中の人々の心が叩き折られていた。
リスナーだけにとどまらず、各ダンジョンに展開を始めていた軍の部隊や警察もなんとか気力を振り絞っている状況だった。
ただ皮肉にもこのような状況だからこそパニックも発生しなかった。パニックを起こす精神的な余力すら人々には残っていなかったのである。
そんな中で三崎も絶句はしていたものの、その目は死んでいなかった。むしろ何かを思考し始めていた。
その様子に気づいていた林所長は、
「三崎。今日、私は最初にダンジョン技術研究所所属の深層探索者、三崎研究員の全ての武装の使用を許可すると言ったのを覚えているな?」
「…はい、勿論です」
「これは文字通り、言葉の通りだ。全ての武装の使用が許可されている」
林所長が言いたいことに気づいた三崎はハッとした表情をして、
「所長、ただアレはさすがに…!」
三崎のただならぬ様子に気づいた面々は
”ん?”
”なんだなんだ?”
”まだなんか手があるのか?”
とコメント欄も少しづつ復活し始めていた。
「三崎、その通りだ。私の方で念のため許可を取っておいた。ということで通信をかわるぞ」
「ん?通信をかわる…?」
こんなタイミングで通信をかわると言われて首を傾げる三崎。
「はじめまして。三崎くん。日本国内閣総理大臣、鷹匠 秀一です」
”え!!!???”
”総理大臣きたw”
”NHKの方でも緊急生放送で総理が官邸から電話かけてるぞw”
”マジか…w”
”もうなんでもありw”
全ての人の予想を超える形で日本国の長、総理大臣の鷹匠 秀一がこの場面で登場した。
三崎もびっくりしすぎて一瞬固まっていたが、
「はじめまして、総理。お話できて光栄です」
なんとか挨拶を捻り出していた。
”三崎がお世辞をw”
”顔芸かよってくらいびっくりしていたなw”
”気持ちはわかるw”
”急に総理から電話かかってくるとか有り得ないからなw”
三崎の慣れないお世辞を聞いた鷹匠総理は笑いながら、
「緊急時なんだ。お世辞はいいよ。また今度ゆっくり話そう。それはそれとして、私からも改めて伝えておくよ」
そして穏やかだった鷹匠の雰囲気が一変し、国の長としての覇気を放ちながら
「コードレッドの発令により三崎くんの全ての武装の使用は許可されている。そしてさらに先程、緊急事態に対する政府の初動対処として臨時閣議を開催した」
鷹匠の覇気にあてられた三崎はごくりと息を呑みつつ静かに話を聞いていた。
「では改めて三崎くん、臨時閣議決定を通達する。戦略衛星兵器、通称神の杖の使用を許可する」
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