第46話
『マスター、深層モンスターの下層への進出を確認しました。幻想種がきます』
スタンピード発生後、これまでに三崎が接敵してきたモンスターは主に上層・中層に現れるモンスターが主だった。
これらのモンスターは1体1体はそこまで大した脅威ではないため、その数に圧倒されなければ比較的対処は容易である。
実際に過去に発生したスタンピードでも初期対応はなんとかなっていたケースもあった。
しかしスタンピードの真の脅威は下層・深層以降のモンスターの氾濫にある。ここからが本番であり手に負えない部分でもあった。
アルファからの警告通りグリフォンやケルベロス、ヒュドラと言った幻想種の有名所がモンスターの大群の奥の方に見えた。
さらに悪いことに幻想種の中でも最上位の脅威に入りうるヤマタノオロチらしきモンスターもチラリと見えた。
「これは下手するとマジで東京なくなるかもな」
そんな不穏なボヤきを思わずポロリとこぼした三崎に対してコメント欄も諦めのトーンになる。
”画面越しにも伝わる絶望感w”
”これは笑うしかない”
”スタンピードの本気をみた”
”まじでNHKの放送が阿鼻叫喚”
”六本木付近の地上も避難でえらいことになってるぞ”
”三崎、がんばれ…!!”
『マスター』
「あぁ、ごめんごめん。さすがにこの光景を生で見るとびっくりしたわ」
『いえ。どうしますか?ドローンも残り23機です。自律型強化外骨格も7機やられました。ファランクスはあと十数秒で全機砲身が焼ききれて稼働停止します』
「残り1分だけど絶望的だな…しゃーない、挙動が安定しないけど対消滅弾を使う。アルファ、ミサイル発射準備」
『よろしいのですか?アレ、世間が別の意味で大事になりますよ』
「どっちにしろここで食い止めないと意味がないからな。人命には変えられん。それに所長から全武装の使用許可はでてる」
”対消滅!!??”
”なんかまたトンデモナイのが出てきた”
”もう何が出てきても驚かないと何度言ったことか”
”なんでもいいから三崎がんばって…!!”
『承知しました。対消滅弾発射準備に30秒ください』
三崎の横の空間から大型のミサイルが姿を現した。
「わかった。俺が前線に出るから準備を頼む。ニュートラルフォームのリミッター解除。1分間のアルティメットモード移行。フルアーマー武装追加」
『承知しました1分間限定のアルティメットモードに移行します。武装もフルアーマーを追加』
一瞬の輝きの後、三崎が纏っていたニュートラルフォームの形状が大きく変化していた。
両手には大剣を。両肩からガトリング、背部にはミサイルパックと大型のスラスター。全身の装甲は厚く。
そしてその周囲にはビーム兵装のドローンを従えていた。さらに装甲の各所に赤いラインが入っており全身が発光していた。
”アルティメットモード!!!”
”フルアーマー!!!!”
”これが三崎の本気”
”頼む…!!!!”
「いくぜ!!!!!」
アルティメットモードを起動した三崎がモンスターの大群に単身で突っ込んだ。
ミサイルやガトリングを乱れ打ち、ドローンを駆使して周囲からの攻撃を反らし、大剣でモンスターを切り刻む。
単身で突っ込んできた三崎に対してモンスターたちも驚き、その進行速度が緩まった。さらに同士討ちもはじまり混迷を極める。
切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。
モンスターの大群のど真ん中。ただひたすらに剣を振り、ミサイルやビームを乱れ撃つ。
たかが30秒。されど30秒。
あまりにも集中してもはや時間の経過もわからなくなってきたタイミングで、
『マスター。対消滅弾準備できました。直ちにその場を離脱して下さい』
「おっけー。ミサイル発射。フルアーマーはパージ。アルティメットモードの全出力を防御に回す」
『了解しました。ミサイル発射します。全力で離脱して下さい』
アルファに指示を出しながら全力でモンスターの中心から退避する三崎。
その様子を確認したアルファが大型のミサイルを射出する。
そしてそのミサイルがモンスターの大群の中央に着弾。
音もなく光と闇がまじったような空間が広がっていき、その空間に呑まれたモンスターが消滅していく。
三崎はその様子を確認しながら全力で下層から退避していた。
そしてついに三崎にまで対消滅弾の余波が襲いかかってくるが、それに対して全身のエネルギーを防御に回す。
19時52分。コードレッド発令からちょうど10分後。
爆発の余波に巻き込まれて配信の画面がブラックアウトした。
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