第44話

『マスター!!!緊急警報。六本木ダンジョン深層エリア付近から振動を検知しました。20秒後に大規模ダンジョン震来ます!!!!』


それと同時にダンジョンネットワークから警報が鳴り響いた。


これらの警報はダンジョン内にいた探索者のみならず、スマートフォンなどを通して地上の一般向けにも発令される。


”うぉ!スマホが??”

”すごいアラームきた”

”え”

”マジ?”


視聴者たちも一瞬で混乱に陥る中、アルファの切羽詰まった声という非常に珍しい状況に驚きつつも、そこから三崎の行動は早かった。


「強化外骨格、ニュートラフォーム緊急展開。さらにドローンバリアも緊急展開して西原さんを守れ」


『承知しました。ダンジョン震、来ます。』


状況についていけない西原があたふたしている横で強化外骨格を身にまとった三崎は、西原を抱えて転移門までダッシュをはじめる。


そしてドンッと下から突き上げるような大きな振動が来た後、ダンジョン内が大きく揺れた。


”うぉおおお???”

”ダンジョン内がめちゃくちゃ揺れとる???”

”都内もちょっと揺れてる!?”

”地下鉄止まった!”

”都内は震度3くらいか?”

”えええ”

”この映像流してていいの…?”


西原をお姫様だっこ状態だった三崎はドローンバリアに周囲を守られた状態で、比較的開けた場所で揺れが収まるのを待っていた。


そして数秒後。揺れが収まったタイミングで、


「アルファ、状況を」


『ダンジョン内で観測されたダンジョン震は最大で震度7クラス。ダンジョン外、東京都内では震度3相当の地震が観測されました。ダンジョン震および地震そのものでの大きな被害は確認できません』


「おーけー、ひとまずはってところか。で、深層はどうなってる?」


『…ダンジョン震の影響でダンジョン構造の変化が確認できました。さらにダンジョン深層で多数のモンスターの発生を観測。即時撤退を推奨します』


「要するにスタンピードが発生したんだな」


『はい。おそらくは後数分で下層にまで到達する見込みです』


”え?”

”おお…”

”え、フィクションだよね?”

”都内の連中、はよ逃げろ!!”

”NHKでもニュース速報出たぞ!”


コメント欄が一気に阿鼻叫喚に陥る中で三崎の元に林所長から連絡が入った。


『マスター、林所長から音声通話です』


「繋いでくれ」


「三崎、聞こえるか?こちら林だ」


「はい所長、聞こえてます」


「よし。状況はこちらでも把握している。この音声通話はダン研内でも公開放送しているからこのまま配信も維持してくれ」


「了解です」


「では災害時対策マニュアルに沿って作戦行動を開始する。内閣官房から先程19時42分にコードレッドが発令された。これよりダンジョン技術研究所所属の深層探索者、三崎研究員の全ての武装の使用を許可する」


”コードレッド!!!”

”全ての武装の使用w”

”これ配信したままで良いの??”

”どえらいことになってきた”

”かっこよすぎる…”

”え、ガチじゃねぇか”


「わかりました。あと所長、これ本当に配信で流したままで良いんですか…?」


状況が状況なだけに林所長のあまりにガチな指令は理解できたもののそれを配信して良いのかが気になった三崎が再度確認するが、


「かまわない。世間のパニックを防ぐためにも今回はこのまま公開してくれて良い。他のところとの話は私の方で対応するから現場は任せた」


「あー、そういう感じですね。承知です。では全ての武装をもって対応進めます」


「あぁ、頼んだぞ。下層で10分保たせろ。いま市ヶ谷駐屯地から軍の精鋭部隊が向かっている。警察も六本木ダンジョンの半径1Km圏内からの一般人の避難誘導を開始した」


「はいはい、了解です。相変わらず人使いが荒いですね。終わったら一杯奢って下さい」


「最高の酒を奢ってやる。頼んだぞ」


そう言って林所長との音声通話は切れた。


”やばい。ハリウッド映画見てるみたいな流れになってきたw”

”都民はマジで逃げろよ?”

”三崎、がんばれー!!!”

”怖すぎる…”

”おおおお、頑張れーーー!!!!”


林所長との会話中も三崎は西原を抱えたまま転移門まで移動しており、そして転移門へたどり着いていた。


「西原さん、ここから離脱してくれ。念のため中層・上層の転移門も経由して逃げ遅れた人がいないかも確認してから退避してくれるか?」


三崎をこの場に残して自分だけ避難することに一瞬だけ悩んだ西原だったが、自分の力量を考えても足手まといになりそうなことを理解して頷いた。


「わかりました、三崎さんも気をつけて!」


「おう、任せろ!じゃあまたあとでな!」


西原が転移門で下層から離脱したことを確認した三崎は、再び転移門から離れて深層方面へ急いで向かった。


「じゃあアルファ、行こうか。出し惜しみは無しだ」


『了解です。…かなり危険ですが本当に逃げなくて大丈夫ですか?』


「…ばーか。ここで逃げたらロマンが廃る」


一瞬言い淀んだ後の色んな感情が込められた三崎の発言を聞いたアルファは、自身のマスターの思いと覚悟を察した。


『すいません。余計な質問でした。では全力で行きましょう』


「あぁ、それで良い」


”マジで頑張って…!”

”三崎頑張れーーーー!!!!”

”うおおおおお!頑張れーーーー!”

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