第43話

六本木ダンジョン下層エリア。19時過ぎ。


三崎と西原は下層エリアに来てからはまず基本的な下層探索者としての心構えや、レイド戦やパーティー構成、退避経路の話などを実例を交えながら配信していた。


「以前の配信でダイアモンド・タートルの変異種がいたかと思うのですが、あの時のレイド戦をしていたパーティーはとてもしっかりしていました」


「あ、その配信は私も見ました!パーティー毎に離脱しつつ、全員が無事に離脱されていましたよね」


”そういえばそんなこともあったなw”

”ドリルランスの記憶しか無かったw”

”ちなみにアレが第1回目の放送なんだぜw”


「そうそう。後から改めて事情聴取とかもさせてもらったんだけど、まずレイドの構成は安全マージンまで考えてほぼ完璧といってよかったです。さすが専業探索者という感じ」


三崎の説明によると、下層探索者と上層・中層探索者の大きな違いはリスクに対する安全マージンの考え方らしい。


上層・中層はモンスターの質が低いこと、そして地上への距離が近いことから何かがあってもなんとかなるケースが大半を占める。


一方で下層はそもそも地上からの距離が遠いことに加えて、深層が近いことからモンスターの脅威度も跳ね上がる。


「そういう背景なんかがあるので、下層で何かがあった場合の生存率は上層・中層に比べると格段に下がりますね。なので専業探索者の方々はかなりしっかり安全マージンを確保されています」


「確かにそういう話は先輩の探索者からも聞いていたけど、私は実際に下層に行ってみるまでその実感が全然なかったです…」


「まぁ終わったことをとやかく言うつもりはないけど、西原さんみたいに中層探索者から下層に進出したての頃が一番危ないって数字もあるからね」


西原の下層アタックのどこがどう危なかったのかの実例を具体的に指摘しつつ、六本木ダンジョンの下層をぷらぷらしながらレクチャーはつづく。


”真面目にレクチャーしている三崎研究員w”

”ど正論すぎてしょぼんとしているホマレも可愛いw”

”学校で道徳の教材見せられてる気分w”

”何かで見たことある空気感だなと思ってたけど、それだw”

”内容はめちゃくちゃ実践的だけどなw”


「あと正式な下層探索者のライセンスをゲットするためには色々と講習を受けなくといけなくてそこで勉強することになるけど、探索者ギルド 緊急救援要請対応センターとかも絶対に知ってる必要があるよね」


探索者ギルド 緊急救援要請対応センターとはその名前の通り、ダンジョン内で何かしら事故・事件・異常事態の発生を確認・認識した場合にラインセンス持ちの探索者が連絡を義務付けられている組織だ。


ここに連絡することで危険度が高いと判断された場合には探索者が救援として派遣されることになる。


そしてそもそもこの救援要請が実現できるようになったのも、ダンジョンネットワークによるところが大きい。


「ま、改めてのダン研のアピールにもなっちゃうけど、こうやって配信できてることも緊急時の救援要請ができるようになったのもダン研の先輩たちのおかげだったりするんだぜということで」


”それは間違いない”

”確かになぁ。昔だったらこんなコンテンツ考えられなかったよな”

”軍とか政府関係の技術がこうして民間で普通に使われるようになるのね”


「ということで西原さん、まずはここまでのおさらいということで。下層にアタックする際に気をつけることと、もし何かあった場合にどうするのか?をリスナーの皆さんに説明してあげてくださいな」


「はーい!下層にアタックする際にはざっくり言うと2つ気をつけます。1つ目は安全マージンの確保です。出来ればパーティーやレイドを組むことが推奨されます。仮にソロアタックするのであればしっかり退避・逃走用の装備やアイテムをしっかり準備すること」


「おう、良いと思う。2つ目は?」


「2つ目は下層より深い層にアタックをする際には、探索者ギルドにダンジョンアタックの申請をすること。これは登山とかと同じですね。何かあったときにこの申請が出されているかどうかで生存率が大きく変わるそうです。ちなみに私は下層アタックの際に申請が必要な事自体を今まで知りませんでした…」


「うん、意外と知られてないので皆さん気をつけて下さいね。専業探索者の皆さんは当たり前に対応されていると思うのですが、西原さんみたいな学生探索者や兼業探索者の方々で、正式なライセンスを保有していない方は特に気をつけて下さい」


そんなこんなで和やかな雰囲気で配信が進む中。ふと西原が、


「そう言えば三崎さん、下層に来てからもう30分くらい経過しますけどまだモンスターに遭遇してないですね?」


「あぁ。西原さんも気づいた?俺も気になってたからさっきから色々と確認してるんだけど…アルファ。どうだ?」


『付近にモンスターを感知できませんね。私も気になったので六本木ダンジョンの上層・中層も調べてみたのですが、そちらでもモンスターの観測頻度が劇的にさがっています。私達以外の探索者パーティーもモンスターに遭遇できず引き上げているところも多いみたいです。』


「そうか…うーん。一応ダン研の技術評価本部 戦闘支援センター管制室にも連絡しておいてくれる?」


『承知しました。』


三崎、西原、アルファがダンジョン内の様子に首を傾げていたまさにその時。


『マスター!!!緊急警報。六本木ダンジョン深層エリア付近から振動を検知しました。20秒後に大規模ダンジョン震来ます!!!!』

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