第34話

古賀との相談で第4回目の配信についても概ねコンセプトがまとまった後、時間的にもちょうど良い時間だったため2人はそのまま昼食のため食堂に向かった。


ちなみにダン研の食堂は研究所外部からの来客も多くかなり小洒落た感じとなっている。


食堂と言いつつ朝昼晩の三食対応可能かつ、カフェ的な利用もできるため職員たちにとっては非常に有り難い存在だった。


三崎も研究や開発の調子が良いときや、論文作成の追い込みの時期などはほぼすべての食事をこの食堂でとっていたりする。


そんな食堂で三崎と古賀は


「お、生田さんじゃん」


「あ、三崎先輩、お疲れ様です」


技術評価本部所属の深層探索者、生田鈴と遭遇した。


「お、りんちゃんおつかれー!」


「あいちゃんもおつかれー」


そして古賀と生田、この2人はダン研職員として新卒同期の超仲良しだった。


ダン研内ではその容姿から注目を浴びることも多いふたりであり、男子職員の間では動の古賀、静の生田と呼ばれ人気を二分していた。


「りんちゃんもランチこれから?よかったら一緒に食べない?」


「ありがと、ぜひぜひ。私が同席しても三崎先輩も大丈ですか?」


「ああ、俺も全然大丈夫だよ」


3人はそれぞれ食券を購入して各自の注文した品を受け取った後にテーブルに付いていた。


「りんちゃん、先週末大変だったんじゃない?」


「まぁスケジュール自体はすこし大変だったけど、探索自体は三崎先輩のおかげですごい楽だったよ」


そして先週末の話をし始める古賀と生田。


生田が担当するような仕事はわりと部外秘のようなミッションも多いのだが、古賀が所属する広報部がダン研全体の秘書機能を一部兼ねていることから古賀の耳にもそれなりに色々な情報が入る。


さらに三崎の配信を始めてからは、配信の企画やスケジューリングのため古賀が三崎の秘書的な仕事もし始めており、週末の件の概観も知っていたという状態だった。


とは言え食堂のような開けた場所であまり詳しい話をするわけにも行かないので話題は自然と三崎の配信の話になる。


「あいちゃん、三崎先輩の配信も振替休日にアーカイブで見たけどおもしろかったよ」


「ありがとう!現役の深層探索者にそう言ってもらえると嬉しい!ちなみに深層探索者から見て三崎先輩の配信ってどうなの?」


「んー、表現するのが難しいけど、羨ましい気持ちと苦笑いと憧れって感じかな。特に各種武装とかアイテムボックスとかは本気で羨ましいから早く量産化してほしいと本気で願っている」


ガチトーンで、かつガチな目線で言われた三崎はランチを食べながら黙って頷いた。


「あとはそうね、三崎先輩の継戦能力とか、深層モンスターを連続で、しかもほとんど一撃で倒していくのは苦笑いになるし、その強さにはやっぱ憧れるかな」


相変わらず黙ってランチを食べていた三崎は微妙に恥ずかしい気持ちになりながらも、いまいらん事を言うとからかわれる雰囲気を感じたため引き続き黙ってもくもくと食べていた。


「はー。深層探索者から見てもそんな感じなんだ?」


「うん。私とか他の深層探索者もドラゴン種自体は問題なく倒せるけど、何体も連続でってなってくるとやっぱり厳しいと思う。しかも三崎先輩はソロだしね」


普段は比較的クールな雰囲気で淡々とした表情をしている生田がいきいきと三崎の配信の面白さを語る様子を見て、古賀も、そして三崎自身も配信に対して改めて手応えを感じていた。


そんなこんなで三崎の配信の話をしたり、古賀と生田の同期の話をしたり、ダン研のその他の深層探索者たちの話をしたりしているうちにあっという間にランチを食べ終え、三崎は他の2人に先んじて食後のコーヒーまで済ませていた。


「よし、じゃあそろそろ俺は自分の研究室に戻るわ、ふたりとも楽しかったよ、ありがとう。じゃあまたな」


そう言って三崎は自身の研究室にもどっていった。その三崎を見送りながら小声で生田が、


「で、あいちゃん。三崎先輩とはどうなのよ?」


とぼそっとつぶやくと、ちょうどコーヒーを飲んでいた古賀が急にむせた。


「ちょっと、急にいわないでよ!」


食堂というオープンスペースで他に誰かに聞かれてないか焦った古賀が周囲をキョロキョロするが、お昼時の食堂の騒々しさもあって誰も気にしていないことが確認できてほっとする古賀。


「いやほら。そこはやっぱり同期として気になるじゃない?」


そんな古賀をにやにやしながら眺める生田。普段クールな表情が多いだけにかなり楽しんでいることがすぐにわかる。


「どうもこうもないわよ。ホントびっくりするくらいなんもないわ」


そんな生田のからかいに、逆に開き直った古賀はややげんなりした表情でぼやく。


確かに配信や広報の仕事自体が好きだし楽しいのだが、それはテーマと言うか、コンセプトと言うか、主役があの人だから本当に良いのであって…などなど頭の中でぐるぐるしだす。


その様子を眺めていた生田は


「普段はめちゃくちゃしっかりしているのにね。ここで奥手っていうのが意外過ぎて笑っちゃうわ」


とふたたび古賀を弄りながら食後のコーヒーを楽しんでいた。

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