第31話

「意外と暇だな」


内藤と生田を超深層へ送り出してから早1時間。土曜の19時。


強行偵察中の内藤と生田から定期的に連絡を受け取りつつも、超深層は意外なことに比較的穏やかな状態を保っていた。


『そうですね。場合によっては超深層級の幻想種モンスターに遭遇してすぐにお二人が戻ってくるかと思っていましたけど』


「そうだよな。この深層エリアでさえドラゴン種コンプリートできるくらい出現率上がってることを考えると逆になんか変な感じするよな」


この1時間で三崎とアルファは先程までの配信及び、遭遇したモンスターたちの振り返りをしていた。


この振り返りの中でも、富士五湖ダンジョンがいくら難関ダンジョンとはいえドラゴン種4種に遭遇したことはかなり珍しい事態であることや、それぞれ遭遇したドラゴン種も比較的大型なものや強い個体が多かったことを2人は既存データと比較しながら把握していた。


「深層の魔素濃度も平常時より上がってるからな。まぁおかげで強化外骨格やロマン武器達の魔素変換機構の調子も良いわけだけど」


『そうですね。魔素濃度は確実に平時より高いですね。強化外骨格や各種武装の性能があがることを考えると良し悪しですけど。それにポーションの効きが良くなりますよね』


「そうだな。さっき飲んだポーションもいつもよりも効きがよくてびっくりしたわ。魔素濃度高いと身体機能も向上するんだな」


『そのようですね。そもそも探索者の力量は魔素にふれている時間が長ければ長いほど上がって行くことを考えると妥当ではあります』


そんな会話をしながらさらに1時間が経過する。その間に三崎は軽食を済ませ、たまに拠点に近づいてくるモンスターを排除しながら過ごしていた。


「そろそろ2時間。折返しの時間だな。どこまで行けたことやら」


『あのお二人が偵察に徹しているのであればかなり深いところまで行っているのでは?』


「確かに。場合によってはダンジョンコア付近まで行ってるかもだな」


『そうですね、それも有り得そうです。ただコア付近にはさすがに階層主クラスのモンスターもいるでしょうから無理はしないかと思いますが』


そんな話をしているときに内藤から三崎へ定時連絡が入った。


「こちら内藤。聞こえるか?」


「こちら三崎です。聞こえています」


「よし。予定の時刻を経過したのでこれから超深層を離脱してそちらに戻る」


「了解です。帰還をお待ちしてます。こちらは特に問題なしです」


「了解した。こちらも問題なし。ちなみにかなり色々面白い映像も撮れたから後ほど楽しみにしておいてくれ。ではこれで定時連絡を終了する」


「お、了解です。楽しみにしてますね」


そう言って内藤からの定時連絡が終了する。「面白い映像?」とかなり気になったものの、さすがに超深層はのんきに会話を楽しめるような環境ではないため好奇心を抑えて2人の帰りを待つ三崎だった。


ーーー


さらに2時間後、無事に内藤と生田が何事もなく強行偵察から戻ってきた。


「お二人共、おつかれさまでした。ご無事でなによりです」


「ありがとう、しかし想定していなかったレベルで静かで逆に気味が悪かったぞ。生田はどうだった?」


「そうですね。私も正直拍子抜けでしたが、手元の魔素カウンターがかなり高い濃度をずっと指していたので警戒ばかりして精神的には疲れましたね…」


そして2人の休息も兼ねつつ、超深層の様子を確認していく三崎とアルファ。


内藤と生田の話によると超深層内は一般的なモンスターは徘徊していたものの、ドラゴン種や、それ以上の幻想種の姿や気配などはまったく感じなかったらしい。


そして三崎とアルファの予想通り、内藤と生田は遠目ではあるもののダンジョンコアの撮影にまで成功していた。ただしその画像が問題ではあったのだが。


「内藤さん、この画像が面白いものですか?」


「ああそうだ。こんな状態のダンジョンコアは見たことが無いだろ?」


そういって内藤が三崎に見せたのはまるで繭のようなモヤ状の魔素に包まれたダンジョンコアだった。


簡易的な測定の結果、そのモヤ状のものはかなり密度が高い魔素が目に見えるような状態にまでなったものであることがわかった。


「これは…」


「三崎研究員はどう思いますか??」


それまで静かにしていた生田が、言葉はやや茶化しながら真剣な表情で三崎に問いかけた。


「結構まずい状態かもしれないですね。あまり先行事例が世の中にも存在していないのですがスタンピードの前兆かもしれないです」

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