第26話

そこで救済措置としてダン研自体が、ダン研職員に限って素材の買い取りを実施している。


ダン研に素材を納めることでダン研職員は通常の買取レートよりもやや良いレートで素材を売却することが可能で、さらにダン研にとっても研究のための素材が手に入りやすくなるというメリットがあった。


三崎がダン研に入所する以前は、これらの制度は基本的には技術評価本部に在籍している探索者達が利用していた制度であり、研究開発本部所属の研究者達が特定の素材に対して追加報酬を設定して依頼を出すというような形で運営がなされてきた。


このような制度があったため深層探索者や下層探索者のような一見すると研究所に関係ない高レベル帯の探索者達を採用することが出来ていた。探索者たちにとってこの制度は非常に美味しかったのである。


それはともかく、そのような形で制度が運営されてきた中で三崎は自分で取ってきたモンスターを換金して研究資金に充てつつ、さらに自分が取ってきた素材を自分で使って研究を進めると言う形でおカネの問題を解決してきた。


なおこの際、三崎は意図していなかったのだが、研究開発本部の第1課から第6課までに対しても満遍なくレア素材を納品していたため本人が気づいていないところで研究開発本部内で三崎の立場が確立されていた。


三崎がバズる前、ロマン武器だのなんだの言って一般的な研究成果を出すことができておらず、さらに本来であれば肩身が狭そうな第7課という新しい部署にも関わらず5年もの間、彼が他部署からのしょうもないちょっかいや足の引っ張り合いなどと縁がなかったのはまさにこれが理由であった。


要するに三崎に変にちょっかいをかけてレア素材が納品されなくなったら困る、ということである。


そんなこんなで自分の研究費を稼ぎつつ、ロマン武器の素材を集めつつ、武器のテストもしつつ、そして他部署への牽制とコネクションづくりをしていた一粒で4つも美味しい制度として素材買い取り制度が機能していた。


なおこの手のクレバーな動きに興味がなさそうな三崎に対して入所以来それとなく裏から支援していたのが林所長なのだが、三崎はこれがどれだけ有り難いことだったのかいまいちピンときていない社会人5年目の研究職であった。


「という感じで普段は研究費を捻出したり、ロマン武器を作ったりしていると言う感じですね」


『ちなみに予算管理は私が対応しています』


”研究員の懐事情がわかってこれはこれで興味深い”

”ロマン武器、税金で作られてるんじゃないか…とか一部で騒がれてたけどこれなら何の問題もなく応援できるわ!”

”そして予算管理までやっている特殊兵装群統合火器管制型人工知能w”

”三崎自体が特殊兵装だった…?w”


「この制度があるので配信する前は各地で深層とか超深層にソロアタックしてロマン武器の素材集めとか研究費稼ぎをよくやってたんですよ」


「なのでぶっちゃけ結構素材とかおカネは潤沢にあったはずなんですが、それがあってもマジックフォームの安定稼働はコスト的な意味で難しいんです。正確なコストはちょっと言えないのですが、まぁイメージとしてマジックフォームの場合は1分間稼働しているだけで100万円かかる、くらいのイメージで良いかもです」


”1分間で100万円溶かす男w”

”これはひどいw”

”完全に予算オーバーw”


「しかも繰り返しになるんですけど、コストもそうですけどそもそもレア素材なので自分で採取しに行くしかないケースも多いです。そういう意味でもマジックフォームはぽんぽん使えるようなもんではないですね」


『今回の稼働でウインド・ドラゴンを倒すために魔法陣の同時起動なども実施したので、マジックフォームもオーバーホールを推奨します』


「うへぇ。スピードフォームもマジックフォームもオーバーホールか…」


とややげんなりした表情をしつつも、しっかり今回の配信のコンセプトである「変身!」と「フォームチェンジ」、そしてそれぞれのフォームの専用兵装をお披露目できていた三崎は非常に満足していた。


「さて、そろそろ休憩は終わりにしていよいよ最後のエリア、火山エリアに行きましょうか!」


”いよいよ火山エリア!”

”富士五湖ダンジョン深層の中で一番深いエリア!!”

”普通に見たこと無いからめちゃ楽しみ!”


三崎が富士五湖ダンジョンの深層アタックを開始してから岩石エリア、湖エリア、そして平原エリアを踏破してきていよいよ富士五湖ダンジョン深層最難関の火山エリアである。


この火山エリアを踏破すると、超深層エリアに進むことができる階段にアクセスすることができるのだが、国内の一般的な探索者ではまずたどり着くことができないエリアでもある。


国内有数の高レベル帯のパーティーか、あるいはダン研技術評価本部などの特殊部隊系の深層探索者ではないと生きて帰ることすら難しいエリアのため、そもそも配信などで世の中一般に開放されること自体が非常にレアケースだった。


「さて、いよいよ火山エリアということで最後のフォームチェンジも先にお披露目しちゃいます!火山エリアは暑いし色々自然系トラップもあって危ないので」


「ということでアルファ、強化外骨格 ベーシックフォーム スタンバイ!」


『Ready! Set!』


「変身!!!!!」


『変身コマンド承認しました。強化外骨格を量子空間から実体化、使用者に装着します』


そこには赤い強化外骨格を纏った三崎が立っていた。

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