第15話

「また長期遠征なのか?」


三崎がバズる直前からしばらくの間は三鷹のダン研にずっと顔を出していた佐野だったが、その直前にも長期の遠征に出ていたため頻度が気になった三崎である。


「あぁ。確かにちょっと頻度高いよな。林所長の前で言うのもアレだけど」


と茶化していた佐野だったがすぐ真面目な顔になり、


「ただ最近ダンジョン異常活動の観測頻度が高くなっているのは事実だな。本部長とか所長にはもちろん報告あげているけど、明らかにおかしい」


それを聞いていた西原は、


「あの、この話って部外者の私が聞いて良いんでしょうか・・・???」


と恐る恐る質問すると


「大丈夫大丈夫、いずれにせよ君には話を聞こうと思っていたから」


と佐野が答えた。その表情を見た瞬間、西原は、佐野の見た目は体育会系のイケメンだが中身は食えないタイプの人だと理解した。


要するに今日この場に佐野がいるのはもちろん三崎に同期として絡みに来たというのもあるだろうが、自分に話を聞きに来たのだと。


その話の流れを察した三崎が、


「おい、佐野。また雰囲気が怖くなってるぞ。爽やかイケメン装って変な探り入れるんじゃねーよ」


と佐野の頭にチョップを入れながらストップをかけた。良くも悪くもブレない三崎である。


一見すると関係性が薄そうな二人だが、性格的にバランスが取れているからこそ2人の友情は続いていた。


「悪い悪い、これは完全に職業病だよ。最近は怖い軍人さんやら謎の諜報組織やら、海外の謎のエージェントと和気藹々と腹の探り合いをしている俺の気持ちにもなってくれよ」


とおどけて見せたあと、


「とはいっても西原さんが今回遭遇した変異種ドラゴンや、三崎が討伐したダイアモンドタートルも一連のダンジョン異常活動の一部だと思っていてな。だから当事者の西原さんに話を聞きたかったんだよ。ちなみに三崎とアルファちゃんにはもう詳細なデータをもらってるから、あくまで西原さん個人の感覚的なもので良いんだ」


話を振られた西原はうーんと唸りながら、


「そうですね…ダンジョン内自体は特段変な感じはしなかったと思います。割りといつも通りだったかなと」


引き続きうーんと唸る西原に佐野が質問した。


「いつもとは違うこととか何かなかった?ダンジョン内の様子だけじゃなくて、自分の調子も含めて」


その質問を聞いた西原は、


「あ!そういえば私は普段は中層をメインで探索しているんですよ。ただあの日は、なんとなく自分の調子が良くて、タイミング的にもそろそろ下層アタックしてみるか?と前々から思っていたこともあって下層にアタックしました」


その発言を聞いた佐野は


「ビンゴ」


と一言つぶやくと、林所長と三崎の方をちらりと見たあと


「西原さん、ありがとう。めちゃくちゃ参考になったよ。ちなみにその調子が良くなるって今までに感じたことってあった?」


「いえ、なかったと思います。確かに普段から体調の良し悪しとかの調子の変化はあるんですけど、あの日は明らかに調子が良かったというか…あの日以来まだダンジョンに潜ってないからいまどうなのかは分からないですけど」


「ありがとう!充分だ、とても参考になったよ。ちなみに三崎はどう思う?」


「あぁ、おそらくお前が考えている仮説で正解だと思うよ。研究者としてはちゃんとデータ揃えてから言いたいところだけど、探索者の一人としてはこれくらいで充分かな」


佐野と三崎、さらには林所長、南野課長など事情を知ってそうなメンツが「こりゃ困ったな」という雰囲気を出し始めたのを見た西原は、


「あの、もし大丈夫だったら可能な範囲で教えていただけますか??」


と問いかけた。その問いかけに対して林所長が回答する。


「おそらくですが、ダンジョン内の魔素濃度が上がってます。それが原因で西原さんご自身は調子が良いと感じられ、さらに変異種ドラゴンやダイアモンドタートルの異常発生を引き起こしたのかと」


その林所長の発言を聞いた西原は一瞬考えたあと、


「え、それってかなりまずい状況なのでは?」


と顔色を青くしつつ敬語すら忘れてつぶやいた。そんな西原の様子を見た三崎が、


「あぁ、まずいですね。なので佐野がいま全国各地を飛び回ってるって話になるんだと思いますよ。ところで所長、この話、そろそろ警報とかも出しといた方が良いんじゃないですか?」


「三崎の言うとおりだな。一応ダンジョン庁、内閣官房、軍関係にはすでに実務者レベルでは伝えてある。民間への通達はもう少し証拠が揃ってからと考えていたけど、西原さんのような事例も出てきてるので少し動きを前倒ししよう」


といったきな臭い話をしつつ、2時間後には飲み会の常として最後の方は佐野と三崎がくだらない話で爆笑し、お姉さん面した古賀が西原にダンジョン関連職種の就活についてレクチャーし、如才ない南野課長はいつの間にか帰宅し、最後に林所長が締めてその日は解散となった。

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