第11話

「三崎先輩、アイテムボックスについてまずは教えてください。初見の方も多いと思うので概要の説明からお願いします」


「了解。じゃあまずはアイテムボックスの話をする前に、その基礎技術となっている転移門について説明させていただきます」


そういうと三崎は席から立ち上がり、そばに準備されていたホワイトボードに絵を描き始めた。


「古賀さん、これちゃんと映ってます??」


「はい、大丈夫そうです。リスナーのみなさんも見にくかったらコメントくださいね」


”おk”

”おk”

”おk”

”この話は普通にわくわく”


「転移門そのものについてはご存知の方も多いと思うのですが。要するに遠く離れた2地点間を一瞬で移動する技術です」


三崎はホワイトボードに2枚の扉の絵をかいて、その2つの絵の間に矢印を引いた。


「まぁ要するにどこで○ドアですね」


”うんw”

”難しい話の気配だったのに一瞬で理解できたw”

”うんw”


「ただ実は2地点間を一瞬で移動する方法が理論的には大きく分けて2種類あります」


そう言いながら三崎は先程ホワイトボードに描いたとびらの一枚を消し、もともと描いていた扉のすぐとなりに新しい扉の絵を描いた。


「1つ目の方法が、2地点間の距離を物理的に無くす方法です。扉を開けたら遠くの場所に繋がっているというケースがこちらに該当します。細かい原理なんかは割愛しますが、時空とかが歪んで距離が0になった的なやつです」


”ふむふむ。”

”どこで○ドアはまさにこのタイプよね”


「もう一つの方法は距離を短くするのではなく、対象物のほうに着目して移動させるタイプのやつです。海外のSFなんかでよく出てくるワープ系のやつがまさに該当します。スター・○レックの転送装置が代表的な事例です」


”スター・○レックw”

”どこで○ドアとスター・○レックの転送装置の違いをこんな形で理解する日がくるなんてw”

”それなw”


三崎は近くに2枚並んで描いていた扉の絵の片方を消し、少し離れたところもう一枚の扉を描き直した。そして一方の扉の前に棒人間を書く。


「我々ダン研が実用化に成功した転移門は、後者の形式、すなわちスター・○レックの転送装置スタイルになります」


そう言って棒人間の手足をクリーナーで少し消しつつ点線状にする。


「転移門は使用者の状態を量子的にゆるい状態にして、移動先の特定の座標で再構築してるんですよね」


もう一つの扉の前にも点線上の棒人間を描く。


「これが転移門の原理になるんですが、じつはこの点線の状態こそがアイテムボックスの肝なんですよ」


そういった三崎は2枚の扉の間に、もうひとり点線の棒人間を描いた。


「2つの固定された座標がある場合、量子化は指定された場所の移動に使えるのですが、当然その中間の状態があります。中間というか実際にはどこでもいいのですが、いずれにせよ量子化したままどこでもないどこかに存在します。この空間を仮に虚数空間と呼んでいます」


「虚数空間の座標を観測することによって、アイテムボックスを実現することができた、というのが今回の発明です」


ドヤ顔で説明しきった三崎の説明に対して、リスナーのコメント欄の反応は半々だった。技術者ガチ勢のリスナーからは感嘆のコメントが、それ以外のユーザーからはよくわからんというコメントもちらほら。


「三崎さん、ありがとうございます。なんとなーくわかったような、わからないような感じなのですが、西原さんからはご質問等ありますか??」


「ありがとうございます、えーと、細かい原理なんかはよくわかんないんですけど、とにかく転移門の親戚みたいなものだと理解しました。それでこれ、実際にどれくらいのものを保管できるんですか??」


変異種ドラゴン戦ではただ逃げることしかできなかったホマレだが、自らも下層探探索者として活動しているれっきとした探索者であり、普段の探索の際の荷物の課題は強く認識している。だからこそ実用的な観点が非常に気になっていた。


そんなホマレの結構真面目な質問に対して三崎は、


「多分、無限です」


と急にアホみたいな発言を始めた。


”は?”

”えw”

”えw”

”えw”

”出たw”


その回答を聞いたホマレは、非常に困惑した表情をしつつ、


「えーっと、無限ですか??」


「はい、収納量って意味だとおそらく無限です。量子化して虚数空間に座標を固定するだけなら理論的には無限に収納できるはずです」


「ただ、現実的には量子化する際に莫大なエネルギーが必要になることと、虚数空間に座標を固定するために非常に高度な計算・演算能力が必要になるので、この2つの要素を踏まえた限界が存在します」


「現在のアイテムボックスはダンジョン内の魔素やモンスターから取得した魔核をエネルギーに用いています。計算・演算はアルファにお任せですね」


「ということでアルファ、現実的にどれくらいの量なら収納可能?」


『そうですね、エネルギー残量や私を稼働させているサーバーの状況にもよりますが、だいたい東京ドーム10個分程度であれば収納可能です。ちなみに東京ディ○ニーランドが東京ドーム10.9個分、ユニ○ーサル・スタジオ・ジャパンが東京ドーム9.2個分程度の敷地面積だそうです』


「あれ、そんなに入るんだ?」


『はい。ただマスター、あなたが作ったアレやコレやですでに半分ほど埋まっていますよ』


”ツッコミどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのかわからないw”

”無限w”

”無限もだけど現実的に東京ドーム10個分が収納可能とか探索者の常識が破壊されるw”

”そしてすでに東京ドーム5個分の何かが収納されているらしいw”

”どんだけロマン武器あるんだよw”

”あるいは超大型の何かが…w”

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