第8話

『アイテムボックス起動、空間制圧型自律起動兵装を量子化して格納。攻城兵装 ドリルランスを実体化。メインウェポンに換装完了しました』


淡々とした調子のアルファが制御を終えると、三崎の手元にはその身長を大幅に超える巨大なドリルランスが握られていた。


一方で背部に元々装備していたはずの空間制圧型自律起動兵装(ファ○ネル)を収めるための巨大なバックパックはなくなっている。


”え…!?いまアイテムボックスって言った!!??”

”アイテムボックス!?”

”アイテムボックス!?”

”アイテムボックス!?”

”アイテムボックス!?”

”アイテムボックス!?”

”しかも量子化やら実体化やら…!?”


「アイテムボックス」とはダンジョン物のゲームや創作などでは鉄板の装備ではあるもののこの世界では未だに発見されておらず、開発も成功されていないもののはずだった。


一般的な探索者は大きなバックパックのような装備を背中に背負って探索を実施し、戦闘の際にはそれを下ろしてモンスターに対応する。


あるいは大規模なパーティーやレイドになると、ポーターと呼ばれる荷物持ちに特化した役割の探索者が参加することもある。


これらのポーターは普段は上層探索者として一般的な探索活動をしており、深層探索者や下層探索者が長期・大規模な探索に望む際にはそれらのパーティーに臨時でポーターとして参加したりする。


これが世の中の常識である。そんな常識は、たったいま三崎によって破壊された。


三崎のヘッドアップディスプレイの片隅で大量のリスナーコメントが流れていく。それに気づいた三崎はダイアモンドタートルの様子を伺いつつ、


「説明しよう!」


といつか言ってみたかったセリフをドヤ顔で言い出した。


「先程アルファが言った「アイテムボックス」ですが、正確に言うとアイテムボックスではないんですよね。まだ完成品ではなくて不完全なんです」


”どういうこと?”

”どういうこと?”

”どういうこと?”

”不完全って??”


「詳しい原理はまた別の機会に説明しようと思いますが、このアイテムボックス、実は転移門の技術を応用したものなんですよ」


しゃべりながらもダイアモンドタートルから注意を逸らさず、左手では須藤達に先にいけと合図をだす。それを見た須藤達は全力でその場を離脱した。


「転移門ってある地点とある地点をワープできる仕組みで、主に大規模ダンジョン内に設置されているので利用されたことがある方もいると思います」


「細かい話は端折るんですがこのアイテムボックスは、本来であれば2地点間をつなぐ技術であるワープを、1地点のみ固定して、出口をなくしたものになります」


「要するに転移門でワープに失敗して時空の歪みに閉じ込められたシチュエーションを擬似的に再現しています」


「ただし量子化した物体を時空の歪みに固定するのに膨大なエネルギーと、それから大規模な演算/計算能力が必要なので量産化は今のところ難しいですね。普通にやると大規模なデータセンターがいくつも必要になる技術で、アルファがいるからちゃんと扱えている状態です」


ドヤ顔で説明しきった三崎に対して、


”え、これはマジで世紀の大発明なのでは??”

”天才科学者現る。。。なお手にはドリルランスがにぎられている模様”

”まじで情報量がおおすぎて訳がわからないw”

”これ、転移門とかポーションなみの発明なのでは!?”

”御本人、ロマン武器にしか興味がないらしいw”


と怒涛の勢いでコメントが流れていく。そして同時刻、ニュースサイトにおいても「速報;ダン研、アイテムボックスの実用化に成功」と速報が流れ、SNSのトレンドも#ダン研、#アイテムボックスなどがトレンド上位に食い込んでいた。


そんな状況を他所に三崎は、


「もう少し説明したいところなんですが、亀がそろそろ動きそうなのでちょっと真面目にやります」


とダイアモンドタートルにむかってドリルランスを構えた。


「アルファ、周囲に他の探索者はいないか?」


『はい、先程の探索者達7名の離脱も確認できました。このエリア内にはその他の探索者も確認できません』


「ありがとう、ならやりますか」


そういった三崎はダイアモンドタートルに向かって走り出した。ダイアモンドタートルも動き出した三崎に対して散発的に魔法攻撃を放ってくる。それを避けながら三崎は


「アルファ、弱点とかわかるか?」


『モンスター図鑑の調査が完了しました。ロックタートルの変異種、ダイアモンドタートルでほぼ間違いないかと思われます。弱点らしい弱点はないですね。強いて言えば甲羅の継ぎ目を狙った高火力の一点突破型の攻撃が有効のようです』


「うむ…要するにドリルをねじ込めば問題ないわけだな?」


『そういうことになります。なのでさっさとやってしまいましょう』


三崎のヘッドアップディスプレイ内に、ダイアモンドタートルの甲羅上部のつなぎ目までの最適な経路が提示された。


『マスター、最適経路の提案が完了しました。スラスター制御はこちらでも補助しますので、全速で突入してください』


「わかった。ならいくぜ!スラスター全開!!!」


そう叫ぶと三崎の背部のスラスターから膨大なエネルギーが溢れ出し、一気にトップスピードに乗る。ダイアモンドタートルからの魔法攻撃を不規則な軌道で避け続けた後、一気にダイアモンドタートルの上方約100メートルの高さまでに上昇した。


そして三崎は手に持っていたドリルランスを両手で構え、


「アルファ、攻城兵装 ドリルランス、質量制限解除!」


『了解です。攻城兵装 ドリルランス、質量制限解除します』


その言葉とともに、ドリルが「ぐんっ」「ぐんっ」と二周りほど大きくなった。そしてそのドリルランスを構えたまま、三崎が下方に向かって全速力で突撃する。ダイアモンドタートルからの魔法攻撃をすべて弾いたドリルが、そのまま甲羅に突き刺さった。


凄まじい音と火花が散る中、さらにスラスターとドリルの出力を上げた三崎は、


「いくぜ、ダイアモンドタートル!!!」


さらに出力を上げ、


「俺のドリルはっ!!!!ダイアも砕くっ!!!!!」


最後にそう叫ぶと、ダイアモンドタートルの甲羅をぶち抜いた。

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