第7話
中層から下層に至る階段を経て、ダンジョン下層エリアに進出した三崎を待っていたのは負傷した探索者パーティだった。
「大丈夫ですか?何がありました?」
探索者パーティに声をかけた三崎に対した答えたのは、パーティーのリーダーらしき男だった。
「あんたは…?」
「失礼しました、ダンジョン技術研究所所属の探索者で、深層探索者の三崎といいます。何がありました?」
自らが「深層探索者」であることを名乗った三崎の発言を聞いた探索者パーティーのメンバーたちは一瞬驚いた後、安心した表情をした。
そして三崎のしれっとした発言にリスナーたちは大いに盛りあがっていた。深層探索者は探索者全体の中でも10%もいない、ガチの上澄みである。
「深層探索者…!こちらこそ失礼した。下層探索者の野崎だ。こちらにいるのはパーティーメンバーの斎藤と佐々木だ。いつもは中層から下層をメインにパーティーで探索している」
野崎と名乗った男がパーティーメンバーを紹介する。斎藤と佐々木と紹介された男たちも軽く会釈を三崎にしてきた。
装備から判断するに、野崎はバランス型の前衛兼中衛、斎藤が前衛特化型、佐々木は魔法兵装メインの後衛らしい。
「俺たちは他パーティーと一緒にロックタートル討伐のためのレイド戦に挑んでいたんだが…」
一瞬言い淀んだ野崎は、パーティーメンバー達をちらりと見た後、
「遭遇したロックタートルが変異種だったらしく魔法攻撃がほとんど効果がなくてな。今回のレイド戦は3パーティー合同で臨んでいたんだが、勝てないと判断した。そこからはパーティー毎に順次撤退となって、最初に練度がいちばん低い俺たちのパーティーが離脱してきたという訳だ」
彼らの武器や装備の損傷具合、体の傷の具合をみるに撤退はしっかり組織だって行われたらしいことがわかる。
彼らの悔しそうな表情を見てもパーティー同士で何かトラブルがあったようにも見えない。
「野崎さん、状況をありがとうございます。まだ残り2つのパーティーは交戦中なんですよね?」
下層エリアは先程の大きな振動のあとも断続的に小さな揺れがつづいていた。
「あぁ。俺たちが最初に離脱した後、先程探索者ギルドに救援要請を出したんだが救援が来るまではまだ時間がかかるそうだ。ロックタートルの変異種なんてそこらの探索者じゃ相手にならないしな」
野崎の言葉に彼のパーティーメンバーの斎藤も佐々木も頷いた。
「あんたは深層探索者なんだろ?もし行けるなら支援要請を受けてくれないか?その装備一式もおそらく特別なものだと思うし、あんた結構強いんだろ?最初に逃げてきた俺等がとても言える立場じゃないのは理解しているが、頼む」
そう言って野崎達が三崎に頭を下げてきた。それを見ていた三崎は、
「当たり前です。任せてください。ダン研はそのために存在しています」
三崎は野崎たちからより詳細な情報を確認したのち、ダンジョン内ネットワークを利用して探索者ギルド 緊急救援要請対応センター、およびダン研 技術評価本部 戦闘支援センター管制室とも連絡を取ったのち、全力でロックタートル変異種の元へ向かった。
ーーー
野崎達のパーティーが離脱してから数分後、2つのパーティー計7名がロックタートル変異種と引き続き交戦していた。
それぞれのパーティーは普段から下層をメインに活動しているパーティーであり、そのメンバーひとりひとりも充分に強い。
今回のロックタートル討伐のレイド戦も本来であれば全く問題なく、充分な安全マージンを確保した上で対応可能な編成のはずだった。
しかし実際に遭遇したロックタートルは一般的なロックタートルのサイズを遥かに超える巨体であり、さらにその体の色味も異なっていた。
一般的なロックタートルは基本的に茶色い砂色のような色味をしており、その名の通り岩や砂漠のような色をしている。
だが現在、彼らの眼の前にいるのはやや青みがかった透き通った甲羅をもつ巨大な亀型のモンスターであり、さしずめダイアモンドタートルと言えるようなモンスターだった。
「くっそ、やっぱ魔法攻撃は効かないな」
撤退のための牽制魔法攻撃をモンスター本体に当ていた須藤が悪態をつく。彼女は今回のレイド戦全体のリーダーとして、野崎たちを先に逃がすことを決めた人物だ。
野崎たち3人が戦場を離脱した後、主に遠距離からの牽制攻撃に徹することで時間を稼ぎつつ、自らもジリジリとモンスターから距離を取りつつ撤退の機会を伺っていた。
そんな彼女達に待ち望んでいた連絡がきた。
「須藤さん!野崎達から連絡が入りました!3名は無事に下層を脱出できたそうです!さらに偶然遭遇した深層探索者がこちらに向かってくれていると!」
野崎達の無事が確保されたこと、そしてさらに深層探索者が支援のために向かってくれていることを知った須藤含めた7名は安堵の表情を浮かべた。
「よし!じゃあ私達も本格的に逃げるとしますか!殿は私が務める!」
そう言って須藤達全員が全力での退避行動に移ろうとした瞬間、
「こちら深層探索者の三崎だ!これより支援攻撃を開始する!全員モンスターから充分距離をとれ!」
という大声が須藤達の進行方向から聞こえてきた。
「アルファ、空間制圧型自律起動兵装、全機展開!あの亀を止めろ!」
『イエス、マスター』
その掛け声とともに須藤たちと入れ替わるように12機のドローンがロックタートルの変異種に飛んでいき、そしてその周囲を高速で旋回しながら猛烈な勢いでビームの雨を浴びせかけた。
ビームの波状攻撃を受けて立ち上がっていた土煙が晴れたとき、そこには無傷のロックタートルが佇んでいた。
”ロックタートルさん、無傷…”
”これは不味いのでは…?”
”ってかドラゴンより強いってこと?”
”武器の相性とかありそう。”
ドラゴンを完封した攻撃が効いていないロックタートルを見たリスナーたちは、これはあかんと感じ始めた頃、
「ふむ。。。やっぱ聞いてた通り魔法攻撃系は効かない感じか」
そうつぶやいた三崎はしばらくなにやら考えた後、
「アルファ、武装変換。攻城兵装 ドリルランス」
『了解です。アイテムボックス起動、空間制圧型自律起動兵装を量子化して格納。攻城兵装 ドリルランスを実体化。メインウェポンに換装完了しました』
その手に現れたのは、天を衝くドリル。
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