第5話
第7課の設立背景が出てきた流れでダン研の組織体制にも触れておきたい。
ダン研は「研究開発本部」「技術評価本部」「支援本部」の3つの本部からなり、それぞれの本部に部格の組織や課が存在している。
研究開発本部には部格の組織が存在せず7つの課から成る。
第1課
ダン研設立と同時に開設されたチームであり、ダンジョン黎明期に探索者が「必ず帰る」ための技術開発を目的としたチームだ。
転移門などの移動関連技術、探索に不可欠な自動マッピング機能、ダンジョン内無線や最新のダンジョンネットワークも彼らの成果である。
第2課
ダンジョン内での移動や通信といった探索に不可欠な技術群が第1課によって担保された後に必要とされた技術が「死なない」ための技術だった。
ポーションなどの回復アイテム関連が第2課の代表的な成果であり、現在でも多種多様なポーション類の研究開発を実施している。
第3課
探索と命の保証がある程度なされたのちに必要とされたのが「モンスターに関する知識」だった。
第3課はモンスターに関するあらゆる研究開発を引き受けており、モンスター図鑑の発行、ドロップアイテムの効果測定などの研究開発に取り組んでいる。
第4課
ここにいたり初めて「武器」が登場する。第4課は「物理兵装」に特化した研究開発に取り組んでいる。
ダンジョン黎明期にはいわゆる近代兵器で武装した軍人がダンジョン探索を実施していたが、ある時たまたまダンジョン内で発見された「剣」が当時の人々の常識を塗り変えた。
すなわち、ダンジョン内ではダンジョン産の武器、あるいはダンジョン産の素材で作成された武器が非常に有効であるということだ。
第5課
ダンジョン内での武器発見と時を同じくして、探索者に「魔法」の発現が確認された。
ダンジョン内でモンスターが物理現象として説明不可能な現象を行使することは早くから探索者の間では認識されていたが、その現象を人間も再現可能であることが確認された。
第5課ではこれらの魔法現象や、魔法を実現するための「魔法兵装」についての研究開発を実施している。
第6課
「ダンジョン産の剣」や「魔法」の発見以前から探索者が探索経験を重ねると身体能力が大幅に向上すること自体は確認されていたが、魔法の発見と研究開発の進展に伴い探索者自身のレベルアップという概念が体系化され一般化した。
現在では探索者をその能力において「上層探索者」「深層探索者」などと格付けする。これらの格付けや試験の運営を含めた探索者の能力に関する研究開発を第6課ではとりくんでいる。
第7課
林所長の肝いりで設立された一番新しいチームである。
ダン研の歴史が積み上がり規模が拡大するに従って、第1課から第6課までは非常に縦割り感が強い組織となった。
それらの組織の壁を超えて新しい価値を生み出すことが期待されているチームが第7課である。
(なおこの説明を見ても分かる通り、他の第1課~第6課と比較して第7課はチームのテーマが非常に緩く、第7課 課長の南野は日々組織運営に頭を悩ませている。)
ダン研には研究開発本部に所属する7つの課以外にも「技術評価本部」「支援本部」という2つの本部が存在する。
「技術評価本部」には研究開発本部の研究成果を評価するために多くの探索者が所属している。その中には少数ながら深層ライセンスを所持する探索者も存在しており、いわゆる戦技研部隊のような活動をおこなっている。
そして最後に「支援本部」。こちらはいわゆるバックオフィス部門が所属する本部であり、人事総務、経理、法務、そして広報部などが存在する。古賀 愛は広報部の所属だ。
話は大分それたが古賀 愛の企画書の話に戻る。
何にせよダン研の現状を憂いていた林所長と、古賀の熱意が完璧なハーモニーを奏でた結果として「企画タイトル:ダンジョン技術研究所職員、自作ロマン武器を試したくて副業で配信始めました」はダン研の正式な稟議プロセスを超高速で経て三崎の前に存在している。
古賀から一通りの説明をうけた三崎はどうしたもんかと思いながら、
「所長、これはマジで言われてます??」
とありきたりな質問しかできなかった。
「あぁ、もちろんだ。正直私も悩んだんだけどね。ただ現在のバズりようを見るとこの機を逃す手もないなと思ってね。それに三崎にとっても悪い話じゃないと思うんだよ」
「どういうことです?」
「そのままの意味だよ。おそらく君の技術は配信にとても映えると思うんだ」
「そうですよ、三崎さん!三崎さんの技術はめちゃくちゃ配信映えします!」
林所長に乗っかる形で古賀までプッシュしてくる。はて、どうしたもんかと思いながら三崎は隣の南野課長を見た。
会議室にきてからこれまで静かに話の流れを見ていた南野課長も、
「私も林所長や古賀さんの提案に賛成なの。一人の元技術者として個人的にはあなたの技術力や発想の自由さをとても尊敬しているわ」
といつものように切り出した。
「でも一方で組織としてあなたの成果を評価することがとても難しいのも事実なの。もし仮に配信がうまくいくのであれば、あなたの研究成果を別の目線で評価することができると考えているわ」
そう言って微笑んでくれた。南野課長が言いたいこともよく分かる。何より三崎自身がちょうど今までのやり方に限界を感じていたのだ。
ならばこのチャンス、逃す手はないのではないか?それに失敗したところで何かを失うわけでもない。
少し悩んだ素振りを見せた三崎だったが、
「わかりました。ダンジョン配信、ぜひ俺にやらせてください」
そして伝説の日々が幕を開けた。
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