第4話
「はい?」
完全に想定外の提案を受けた三崎がアホのようなリアクションをしているのを見た林所長は苦笑いをしながら、
「気持ちはわかるよ。私も最初は同じようなリアクションをした。実は今朝出勤したら私の部屋の前で古賀くんが待ち構えていてね」
朝っぱらから研究所の所長(一般的な企業だと役員級)を待ち構える新卒3年目。それはもう別の意味で勇者か何かの類ではないだろうか。
「三崎くんを配信者として売出していこうというそれはもう熱心な提案をしてくれて今に至ると言うわけだ。古賀くん、説明お願いできるかい?」
林所長がそう話を振ると先程以上にイキイキとした様子の古賀が手元の端末を操作して、スクリーンにとあるスライドを映し出した。
そのスライドの表紙ページと思われるページには上段から「国立ダンジョン技術研究所 支援本部 広報部 企画書」とあり、その下には「企画目的:ダン研広報活動の強化、およびブランディングイメージ向上施策について」とあった。
そして最後に「企画タイトル:ダンジョン技術研究所職員、自作ロマン武器を試したくて副業で配信始めました」。
あまりの情報量と内容に三崎が引き続きアホのように呆けた表情をしているのを他所に古賀の独演会がはじまった。
曰く、彼女は元々ダンジョン配信者に強く憧れており、ダンジョンに関わる仕事をしたかったから新卒でダン研に入所した。
曰く、SNSマーケティングやちょっとした配信などは学生時代から取り組んでおり、いつか自分も仕事でやってみたいと思っていた。
曰く、三崎のロマン武器を兵装試験でひと目見たときから超面白いコンテンツになると思いその機会を淡々と狙っていた。
などと自身の思いの丈を熱く語りながらいよいよ本題に入ってきた。
「ということで三崎さん!じつは私、昨日も西原誉さんの配信をリアルタイムで見てたんですよ!元々ホマレちゃんのファンだったんです!」
昨日たまたま定時で上がり、特に用事もなかった彼女は家でまったり配信を見ていたらしい。
「そうしたらホマレちゃんがマジでピンチになったときに三崎さんが颯爽と登場して!ドラゴンを一撃で粉砕した際にはテンション上がりすぎて死ぬかと思いました!これこそが私がしたかった仕事なんだって!そしてそのままのテンションで作成した企画書がこちらなのです!」
そして古賀が企画の具体的な内容の説明を始めた。
もともとダン研 支援本部 広報部ではダンチューブ含めたいくつかのSNSアカウントを公式として運用しており、ダン研のイベント関連告知や、研究成果発表、市民向け講座などで運用を実施していた。
三崎も新卒でダン研に入所した際、広報部のインタビューを受けた記憶がある。
ただそれらのコンテンツは当たり前ではあるものの一般向けには訴求力が弱く、広報部としては(というか古賀としては)非常に物足りずなんとかテコ入れをしたかったらしい。
さらにタイミングが良い?ことに、ダン研のボスである林所長としても昨今のダン研の影響力低下に危機感を抱いていたらしい。
勢いのある民間企業と採用活動などで張り合えるようなそんなブランドイメージを求めていたようで古賀の提案がわたりに船だったということだった。
ここで話が逸れるがダン研について少し補足説明をさせてもらいたい。
改めてダン研とは国立ダンジョン技術研究所の略称であり、その名の通りダンジョンに関するあらゆる最先端技術を研究している研究機関である。
ダンジョン黎明期の混乱を経て国が設立した由緒正しき組織であり、ポーションや転移門といった探索者にとってはなくてはならない技術を開発したのも「ダン研」の研究者たちだ。
そして数年前にはそれまでの通信技術では不可能とされてきたダンジョン内部と外界のリアルタイム通信を実現する「ダンジョンネットワーク」を実現させたのも彼らである。
同時期にはダンジョン内部の磁場の影響でそれまでは困難とされていたドローン制御も成功させ「ダンジョン内でのドローン飛行」を実現させた。
と、一見順風満帆で強い組織に見えるのだが一方で最近では「ダンジョンネットワーク」と「ドローン飛行」以外に大きな成果が出ていないのも事実だった。
更に最近では外資系ダンジョン企業の日本進出も活発であり、ダンジョン研究者を始めとしたダンジョン関連専門職の採用も困難になっている。
こういった背景から林所長の肝いりで第7課も創設されているという流れもあるのだが今のところまでに大きな成果につながるような研究成果を世に出すことができていなかった。
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