第3話

ダンジョンで変異種ドラゴンが発生した翌日。東京都三鷹市に所在する国立ダンジョン技術研究所の一角で三崎は上司に呼び出されていた。


「三崎くん。ちょっと会議室まで来てくれる?」


そう言って三崎を呼び出したのは7課の課長である南野紗絵(ミナミノ サエ)だった。三崎が知るところによると彼女は40歳前後のバリキャリで、元は中央の官庁で技官をしていたらしい。


7課発足にあわせてダン研に転籍してきたとのことだった。要するに超エリートである。見た目もクール系のお姉様タイプであり、ダン研内部でも高い人気を誇っている。


南野課長に連れられて赴いた会議室には先客がいた。


「よく来たね。早く部屋に入りなさい」


そう言って南野課長と三崎を部屋に招き入れたのはダン研を統べる者、すなわち国立ダンジョン技術研究所 所長の林 明訓(ハヤシ アキノリ)だった。そしてその横には、


「南野課長、三崎さん、おつかれさまです!」


とややギャル風味な女性がいた。ダン研 支援本部 広報部 所属の 古賀 愛(コガ アイ)だ。


大卒3年目の彼女はその見た目、圧倒的なコミュ力に加えて隙のない実務能力から技術研究所の7不思議と呼ばれていた。


すなわち、なぜ彼女のような強キャラがダン研のような組織にいるのかである。サイ○ーエージェントでバリバリに活躍してそうな人が研究所の広報課にいる違和感といったら伝わるだろうか。


「所長、古賀さん、おつかれさまです」


そう言って促されるままに席につく南野課長と三崎。ちなみに三崎の脳内では南野課長と古賀さんのプロフィール解説がなされていたが、所長についてはスルーだった。


所長とは学生時代からの付き合いであり三崎をダン研に勧誘したまさにその人こそが林 所長なのだが、その話はまたいずれ。


それはともかく、


「では揃ったので早速始めましょう。三崎、まずは昨日はおつかれさま。人命救助もすばらしい働きだった」


そういいながら林 所長は手元の端末を操作しながら会議室壁際のスクリーンに画面を映し出していた。


「普段であれば報告書を書いてもらい、あとは細かい事務処理で終了しても良い案件なのですが。。。三崎はこれをみてるかい?」


林所長が映し出していたのはとある切り抜き動画だった。


その動画にはとある黒ずくめの男が板状ドローンを周囲にひゅんひゅんさせながらドラゴンをボコボコにし、挙句の果てにドでかい銃で一撃でドラゴンを消滅させる様子が映っていた。


スクリーンに映し出されたその動画をみた三崎は、これ以上はない微妙な表情を浮かべながら頷いた。


「なら説明を続けよう。要するにだ。この動画は大いにバズった。古賀くん、補足の説明をお願いできるかな?」


「はい!では詳細はこの私、広報部所属の古賀愛が説明させていただきますね!」


いつものようにテンション高く、だが非常にわかりやすい資料を使いながら古賀の説明が続く。


「昨日の三崎さんの人命救助、及びドラゴン退治の様子が配信者の西原誉さんの配信にすべて映っていました。その時点で同時接続が30万人を超えていたことから、三崎さんの一連の活躍が世の中に認知された形です。その西原さんの動画から切り抜かれる形で多数の切り抜き動画が拡散され、ほぼ1日経過したいま現在でもまさにバズっている真っ最中ということです」


古賀の説明を聞きながら三崎は昨日のことを思い出していた。超電磁砲でドラゴンを消滅させたあと、三崎も助けた相手が配信中であることにはすぐ気づいた。


そのためすぐその場で配信を停止してもらった上で簡易的な手当をし、ダンジョン下層から彼女を連れて脱出した上でダンジョン外にすぐ設置されている交番に彼女を預けた。


軽い事情聴取を受けたのち遅い時間だったものの報告のために一度ダン研に戻り、そして取り急ぎの報告を済ませて帰宅。


今朝再び南野課長に詳細な報告を済ませ、お昼休憩を終えたところで今に至る。


昨日のことを思い出しながら古賀の説明を聞いていると、どうやら自分が想定した以上に大事になってしまった事をようやく実感することができてきた。


昨晩の段階でダンジョンに変異種ドラゴンが出現したということが大きなニュースになっていることまでは認識していた。


しかし今朝出勤した際に仲の良い同期から「お前、バズってるぞ」とスマホの画面で切り抜き動画を見せながら言われた際には「は?」というリアクションしかできなかった程度には実感がなかった三崎である。


昼休憩の際にはその同期からより詳しく話を聞き、自分でもネットの海を彷徨い、そして今現在、ダメ押しのように古賀の明瞭快活な説明を受けている。


そして古賀が一連の状況説明を終えたのち、所長や古賀、そして南野課長から事実確認のような質問が三崎になされた。


そのどれもが三崎がすでに上げた報告書の内容に沿ったものだったのであくまで確認の質問だったのだろう。


三崎は話が見えないな?と思いながらも聞かれるがままに回答していたが、一連の質問がおわったあと、所長、南野課長、古賀の三人が顔を見合わせ頷いた。そして得心が言ったらしい所長が運命の宣託を下した。


「三崎。ダンチューブのダン研 オフィシャル 広報チャンネルで配信者をやってみないか?」

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