エリナ姫の憂鬱
Danzig
第1話
エリナ:お父様、ごきげんよう
エリナ:あら?
エリナ:お父様、どうなさいましたの?
エリナ:何処かしら元気がないご様子ですこと
王から舞踏会の話をされる
エリナ:ええ、来週は舞踏会ですわね。
エリナ:私にとって初めての舞踏会ですが、私(わたくし)は、あまり殿方(とのがた)とお話した事がございませんので、少々不安ですのよ
エリナ:え・・
エリナ:そ、そうですか
エリナ:今度の舞踏会で、私(わたくし)の伴侶(はんりょ)を決められるのですね
エリナ:私が嫁(とつ)ぐのは、もう少し先だと思っておりましたのに・・
エリナ:もう、そこまでこの国は危うくなってしまったのですね
エリナ:分かりました・・
エリナ:私と致しましては、もう少しお父様のお近くに居たかったのですが
エリナ:この国の為ですから、私はどこの国にでも嫁ぐつもりでおりますわ
エリナ:だって、私はこの国の王女として、生まれて来たのですから
エリナ:はは、お父様、そんなお顔をなさらないで下さい
エリナ:私は大丈夫ですよ
エリナ:(M)私の名前は、エリナ。 エリナ・マリエーゼ
エリナ:(M)リベリア王国という小さな国の王女として生まれました
エリナ:(M)リベリア王国は、かつてはミスリル鉱山で栄えた国でしたが、鉱石が枯渇(こかつ)してからは、次第に国力が衰え
エリナ:(M)今では、列強(れっきょう)に飲み込まれようとしている、弱い国となってしまいました。
エリナ:(M)そんな中、この国が生き残っていく為は、貴族の娘を、何処かの有力な国の貴族に嫁がせ、国同士の結びつきを強めるしかありません。
エリナ:(M)そして、王女の私がその役目を担う事となり、次に開かれる舞踏会で、生涯の伴侶となる殿方を見つける事となりました。
エリナ:(M)そして、舞踏会の日
エリナ:ふふふ、あら、ローレンス王子、ごきげんよう
エリナ:まぁ、嫌ですわ、フィリップ殿下ったら
エリナ:あ、リチャード伯爵、よろしければ今度一緒にお芝居などいかがですか?
エリナ:ふふふ
エリナ:ふう
エリナ:(小声で)お父様、私(わたくし)少々身体が火照って参りましたので、少しテラスで涼んでまいりますわ
テラス
エリナ:あぁ涼しい
エリナ:このテラスからの景色を見られるのも、あと少しですわね
エリナ:それにしても・・この舞踏会で、この国の為のよい伴侶が見つかればよいのですけれど・・
アルト:こんばんは、エリナ姫
エリナ:あら、アルト王子。
エリナ:どうなさいましたの?
アルト:お邪魔でしたか?
エリナ:いえ、とんでもございませんわ
エリナ:こんな所にいらして、どうなさったのかと思いまして
アルト:私も少し涼みに来たところです。
エリナ:まぁ、そうでしたの
アルト:ええ、そして涼みに来たところで
アルト:あなたのようなお美しい方を見つけましたので、思わず声をかけさせて頂いた次第です
エリナ:まぁ、お上手ですのね
アルト:いえいえ、本当の事ですよ
アルト:ところで、エリナ姫は、なぜこんな所に
エリナ:私も涼みに参りましたのよ
エリナ:それと、ここから見る景色も、もうすぐ見られなくなるかと思うと、今のうちに見ておこうと思いまして
アルト:そうだったんですか
アルト:ですが、それは何故
エリナ:私は、もうすぐ嫁ぐ事となりますので・・
アルト:そうですか
アルト:で、姫はどちらに嫁がれるのですか?
エリナ:それはまだ・・決まってはおりませんの
アルト:決まってないって・・
エリナ:お恥ずかしい話ですが、アルト王子も、この国の現状はご存じでしょ
エリナ:私はこの国の為に、もうすぐどこかの国に嫁ぐのです。
アルト:そんな・・そんな事が・・
エリナ:でも、それが王族に生まれた女の使命ですから
アルト:それならば、僕の所においで下さいませんか
アルト:僕なら、エリナ姫をきっと幸せにできます
アルト:この国の為というのであれば、直ぐにでもいらしてください
エリナ:ありがとうございます、アルト王子
エリナ:王子のお優しさが、心にしみますわ
エリナ:でも、直ぐにというのは無理ですわ
エリナ:女性が嫁ぐという事は、それなりに準備がいりますし、それに・・
エリナ:お父様がどう仰るか
アルト:エリック陛下がですか?
エリナ:私はこの国の行く末を左右する政治の道具ですの
エリナ:ですから、この国にとって一番いいと思われる国に、一番効果的な方法で、差し出されますのよ
エリナ:そして、それを決めるのは、お父様ですのよ
アルト:差し出されるだなんて、それではまるで、あなたが物みたいではないですか
アルト:ご自分の事を、そのように仰(おっしゃ)るものではありません
アルト:あなたは、まぎれもなく、一人のお美しいレディなのですから
エリナ:アルト王子、ありがとうございます。
エリナ:王子のそのお言葉、殿方にそのような優しいお言葉をかけて頂いたのは、私(わたくし)初めてですわ
エリナ:もし、王子との結婚が叶わなくても、王子のそのお言葉は、生涯忘れません
アルト:そんな事を仰(おっしゃ)らないで下さい
アルト:僕からもエリック陛下にお願いしてみます
エリナ:ありがとう王子、あなたが、お父様のお眼鏡に叶うとよいのですが・・
アルト:エリナ姫・・
エリナ:さぁ、もう私はホールに戻らなければなりません
エリナ:アルト王子、いつかまた、こうして王子と二人でお会いできる日が来ることを、心から望んでおりますわ
エリナ:では、ごきげんよう
ホールに戻る姫
アルト:あぁ、なんて清楚な女性なんだ
アルト:そして、あの美しい瞳、優しい笑み
アルト:どうやら僕は、彼女に心から惹かれてしまったようだ・・
アルト:(M)僕の名はアルト・アーネスト
アルト:(M)僕はラトワール国の王子として生まれた
アルト:(M)ラトワールは、歴史こそ浅い国だが、大小4つの国を結ぶ街道の要所(ようしょ)にある事と、
アルト:(M)国の周辺には、魔物が住む森がいくつかある事から、冒険者も多く、経済的に発展している国だ
アルト:(M)僕は舞踏会の後、エリック陛下にエリナ姫との婚姻をお願いした。
アルト:(M)当初、エリック陛下は、ラトワールの歴史が浅い事などを心配し、渋い顔をしていたが
アルト:(M)最後には、エリナ姫との結婚を承諾(しょうだく)してくれた
アルト:エリナ、エリナはいるかい?
エリナ:どうしましたの?
アルト:今日は天気もいいし、湖に行って、二人でボートにでも乗らないか?
エリナ:あら、素敵ですわね、ご一緒させていただきますわ
アルト:よし、じゃぁ、早速、支度をしよう
アルト:セバスチャン、支度を頼むよ
ボートの二人
アルト:どうだい、エリナ
エリナ:綺麗な景色
アルト:気に入って貰えたかい
エリナ:ええ、とっても
アルト:ところで、エリナ、この国に来てくれたけど、不自由はしていないかい?
エリナ:心配してくださってありがとう
エリナ:でも、大丈夫ですよ、セバスチャンさんを始め、お屋敷の方々は皆さん良くしてくれますし
アルト:それは良かった
アルト:この国は歴史が浅いから、格式のある国のお嬢様をお迎えするのに、みんな緊張してしまってね
アルト:礼儀正しいエリナに対して、失礼がなかったか、心配していたんだよ
エリナ:そんな事は少しも、それに緊張していただく必要もございませんのよ
エリナ:私はこれでも、小さな頃は、お転婆(おてんば)と言われた時もありましたの、ふふ
アルト:そうだったのか
アルト:今のエリナからは、想像も出来ないけど
エリナ:大きくなってからは、ずっと花嫁修業のような事をさせられて来ましたから
エリナ:いつしか、小さな頃とは変わってしまいましたわ
エリナ:今では、その頃からのものは、趣味が一つ残っているくらいですもの
アルト:大変だったね
アルト:で、その趣味って何なんだい?
エリナ:お恥ずかしくて、お話できませんわ
エリナ:乙女の趣味ですから、あまりお聞きにならなくても・・
アルト:いや、ごめんごめん、そうじゃないんだ
アルト:エリナに趣味があるのなら、その趣味を続けて欲しいと思ったんだよ
エリナ:ありがとうアルト、では、お部屋でこっそり続けさせて頂きますわね
アルト:あぁ、そうしておくれ
エリナ:でも、アルト、あなたの方こそ、よろしかったのですか?
エリナ:私は、世間知らずの箱入り娘ですのよ
アルト:はは、そんな事は構わないよ、僕だって、世間をそんなに知っている訳じゃない
アルト:必要なら、これから二人で学んで行こう
エリナ:ありがとう、嬉しいわ
数か月後
エリナ:セバスチャンさん、なにやら屋敷全体が、騒がしいようですが、何かございましたの?
アルト:エリナ、エリナ! あぁ、エリナ、ここに居たのか
エリナ:アルト、何かございましたの?
アルト:突然、魔物が大量に、この屋敷に攻めて来たんだ
エリナ:なんですって
アルト:どうやら、何処かの国が、裏で糸を引いているようだ
アルト:恐らく狙いは、父上と僕の命だ
エリナ:どうして、そんな
アルト:エリナ、君も王族だから、命を狙われる危険がある
アルト:だから、君は隠れていてくれ
アルト:セバスチャン、エリナを頼むぞ
エリナ:アルトは?
アルト:僕も兵士と一緒に魔物を迎え撃つ
アルト:魔物の狙いが僕なら、迎え撃った方が戦いやすいからね、さぁ、早く!
エリナ:アルト!
エリナ:セバスチャンさん、どこまで行きますの?
エリナ:え? 地下通路から国外に?
エリナ:アルトが私を・・
止まるエリナ
エリナ:まって下さい、セバスチャンさん、私は参りません
エリナ:セバスチャンさん、王族が国外に逃げるという事は、国が負けるという事ですのよ
エリナ:私はもうこの国の人間です。もし、この国が負けるのであれば、その時は私も一緒です
エリナ:私は、アルトの力になりたい
エリナ:セバスチャンさん、何か私が使えるような武器などは無いのですか?
王の広間
アルト:ちくしょう、予想以上に数が多い
アルト:このままでは、もうすぐ押し切られてしまいそうだ
アルト:クッ・・・ふん!
アルト:皆の者、頑張れ、例え死ぬ事になっても、最後まで、我らラトワールの誇りを奴らに見せつけてやるんだ!
アルト:はぁっ!
アルト:エリナは上手く逃げられただろうか
アルト:まぁ、セバスチャンが居れば大丈夫か
アルト:うわっ・・クッ、僕も、そろそろダメそうだな
アルト:エリナ、君だけでも、逃げ切ってくれよ・・
エリナ:はぁぁぁぁ! せりゃ!
魔物を切る
エリナ:アルト、大丈夫?
アルト:エリナ、どうして・・
エリナ:加勢(かせい)に参りましたわ
アルト:どうして逃げなかったんだ
エリナ:私はもう、この国の人間ですわ、ですから、私の運命もこの国と一緒ですのよ
エリナ:ふん!
アルト:エリナ・・
エリナ:とにかく、この方々を何とか致しませんとね
エリナ:はっ!、せりゃ!
アルト:エリナ、どうして剣が使えるんだい
エリナ:小さいころ、お転婆(おてんば)だったと申し上げたではありませんか
エリナ:とりゃ!
アルト:それにしても、エリナ、君、強すぎるでしょ、お転婆ってレベルじゃ・・
エリナ:そんな事ございませんわ、結局、師匠には、いくらやっても勝てませんでしたもの
アルト:あの・・ちなみに師匠って?
エリナ:セドリックという名前でしたわね
エリナ:はっ!
アルト:セドリック・・って、それ伝説の勇者!
エリナ:知りませんわ、そんな事
エリナ:世間知らずの箱入り娘と申し上げましたでしょ
エリナ:はぁぁ!
アルト:いや、そういう意味じゃ
アルト:ちなみに、エリナはどれくらい強いの?
エリナ:大した事ありませんわ
エリナ:ドラゴン1匹倒すのが精一杯でしたもの
エリナ:とりゃ!
アルト:ドラゴンって・・
エリナ:でも、1匹でも仕方ないんですのよ
エリナ:師匠は、棒切れくらいしか、持たせてくれませんでしたの
アルト:棒切れって、それでドラゴン倒したの?
エリナ:それしか武器がないなら、それで倒すしかありませんでしょ
エリナ:師匠からそう教えられましたわ
アルト:ちなみに、いつ頃の話?
エリナ:花嫁修業をする前でしたから、15の時ですわね
エリナ:せりゃ!
アルト:15歳で、棒切れでドラゴン倒したの?
エリナ:ええ、でも師匠は褒めてくれませんでしたわよ「時間がかかりすぎだ」って
アルト:そんな・・
エリナ:しかし、こいつら、幾ら倒してもキリがないわね、腹立つ
アルト:エリナ、言葉、言葉・・
エリナ:あら、いやですわ、私ったら、ほほほ
アルト:あれ? その剣は
エリナ:あぁ、これですの?
エリナ:これはセバスチャンさんに案内していただいた部屋にありましたの
エリナ:武器庫のようでしたけど、あまり私にあう武器がありませんでしたので、一番奥にあったこれを持ってきましたのよ
アルト:あの・・それって、台座に刺さってなかった?
エリナ:ええ、そういえば刺さってましたわね
エリナ:抜いて来ちゃいましたけど、ダメでしたの?
アルト:いや、ダメとかじゃないけど、その剣は・・
エリナ:じゃぁ、いいじゃありませんか、とりあえず今は、この辺りの雑魚(ざこ)の方々を片付けませんとね
エリナ:せりゃ!
アルト:それ、エクスカリバーという名の剣で・・
エリナ:剣の名前なんて知りませんわ、世間知らずの箱入り娘と申し上げましたでしょ
アルト:だから、そういう事じゃ・・
エリナ:はぁ、はぁ、ようやく、この方が最後みたいですわね
エリナ:では、参りますわよ、はぁぁぁぁうりゃぁ!
魔物を倒す
エリナ:ふぅ、これで全部片付きましたわね
アルト:ありがとう、エリナが来てくれなかったら、僕は死んでいたよ
エリナ:お役にたてて、嬉しいですわ
アルト:それにしても、君があんなに強いなんて知らなかったよ
エリナ:あら、お嫌いですか? こういう女は
アルト:いや、とっても素敵だよエリナ
アルト:これからも、僕とずっと一緒に居てくれないか
エリナ:はい♪ うふふ
アルト:ちなみに、エリナの趣味ってやっぱり・・
エリナ:ええ、剣術ですわ♪
エリナ姫の憂鬱 Danzig @Danzig999
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