自分たちで書いたシナリオを自分たちで演じる文演部。しかし、そのシナリオは概ねのあらすじや役が指定されているだけで、演じた結果生まれたシナリオが作品になるというものだった。
自分の死ぬシナリオばかり作る白坂奈衣。彼女が本当に死んでしまったことで、遺されたシナリオによる『本作り』が始まる。
様々なエピソードや登場人物の心理が複雑に絡み合い、タイトル~各章すべての要素がラストに向けて集束していく、非常に味わい深く、胸に余韻の残る作品です。
この作品の最大の特徴は作中劇ではないでしょうか。しかも、通常であれば小説の中でさらに別の劇がなされるところを、この作品では作中で起こった事がそのままシナリオに、登場人物が役になり、「小説として描かれている本作自体」が作中劇として演じられています。
自分という役を演じることで、各登場人物は自他の心理を主観的かつ客観的に見つめていきます。そうして掘り下げられていった心理は、人の抱える様々なタイプの歪な、けれど、全くの他人事とは割り切れないようなものだったように感じました。
とても読み応えがあります。ぜひ、じっくりと読んでいただきたい作品です。