[3] 占術
「何が知りたいんだ」
「簡潔明瞭に頼む」
「正しい答えを得たければ正しい問いをたてろ」
彼らも彼らでヒマなわけでもないので雑談は適当なところで切り上げて本題に移る。
占いといっても何か特殊な行動を求められるわけじゃない。彼らの言うようにこちらが『適切な問い』をたてればあとは自動的に進行してくれる。
ではその『適切な問い』とは何か?
まず答えの個数がある程度限られているものが望ましい。3つか4つぐらいが適当。10は多すぎる。
それからあまり遠い話は答えられない、時間的な意味でも距離的な意味でも。一応答えることはできなくもないが、がくっと精度が落ちるからあまりおすすめしない、とのこと。
前に仕事で探し物をしたことがあった、保々草というやつ。薬師が夢見をよくする薬を作るのに必要だと依頼してきた。そこらへんにひょいひょい生えてるような草ではない。
ちょうど3匹を呼び出せたので占ってもらうことになったのだが、「保々草はどこに生えているか?」では答えてくれなくて、「保々草を手に入れるには東西南北どちらの方角に向かえばいいか」と問いかけることになった。
その時は森とは正反対の方角を教えられて、パーティーの他のメンバー――えーとあの頃だと水連に所沢に黒谷口だったかな――には、こいつだいじょうぶかという目で見られたのだけれど、リーダーの木崎だけはその占い結果を信じて動いてくれた。
実を言うと僕もその占いあってんだかはずれてんだか、自信なかったんだがそれはそれとして。
最終的にどうなったかと言えば、示された方角に歩いていったところ朽ちた家があって、その裏庭に目的の保々草が生えていて、無事に依頼は達成できた。
そのおかげで妖精使いって思ったよりすごいのではっていう風に、パーティー内でも思ってもらえるようになったのだけれど、まあその時はうまくはまっただけであって、すぐにやっぱり妖精使いってどうなんだ? って空気になった。
いやいや用があって3匹に来てもらったわけであって、思い出に浸っている場合じゃなかった。
質問はそうだな――前と同じ感じでいいだろう。
「この街を出ていくつもりなんだけどどの門から出ればいいかな」
正直なところ実利はそんなに期待していなかった。半分縁起担ぎみたいなもの。
ABC3つの選択肢があって、どれでもいいかなって時にかわりに選んでもらうような感覚だった。まあ向こうだって厳密な利益なんて計測されたら困るだろう、多分。
『その問い承りました』
3匹そろって優雅に礼をすると、円を描いてくるくると踊り始める。特に必要ないのだが喜んでくれるので、手拍子でリズムをとってやる。
最初はゆったりとした動きだったのが、徐々に激しくなっていって、それにつられるようにこちらの手拍子も早くなっていく。最後には半狂乱になりながら猛烈な勢いでぐるぐる回った末に、円の真ん中のところでどしんとぶつかりあって目をまわして倒れた。
心配しなくていい、これが彼らの占いの方法だから。
しばらくして3匹は起き上がると、口々に断片的な言葉を述べていった。
「逃れられない」「宝物」「災厄」「滅びる」「虚無」「走る」「走る」「走る」「絶望」「終わり」「北の門」「平坦」「住処」「夢」「生命」「真理」「扉」「過去が迫ってくる」「戦争」「希望」「たどり着けない場所」「雨」「冷たい雨」「凍りつく」「監禁」「隙間」「時間の流れ」「特異点」「不可避」「忘れられた場所」「聖域」「待っている」「待ち望んでいる」「来訪者」「妖精使い」「最後の妖精使い」
だいたい聞き取れたのはそんなところだった。占いが終わると3匹は勝手に去っていく。まあどのみち詳しく聞いたところで教えてくれない。彼ら自身もよくわかっていないと言った方が正しい。
不穏な言葉がだいぶ混じっていたように思える。いくつかポジティブなワードも入っていたけれど。それから具体的に「北の門」というのも聞き取れた。
そっちに行けというのか? それともそっちだけは行くなというのか?
肩にのって一部始終を見ていたキノスケがつぶやく。
「いつにもまして意味不明だったなー」
「うんまあかなーり示唆的ではあったね」
「で、どうすんだ? 占いなんかに頼らずちゃんと情報集めて考えた方がいいんじゃねーの?」
きのこの妖精にしてはきわめて常識的な提案に対し、僕は宙を睨んでうーんとうなった。
実のところこの時すでに僕の心は決まっていた。
決まっていたがどうしてそれに決まったのか、理由を説明することができなかったし、決まっていたといっても選択に迷いも多少あったから、言葉にするのにはためらいがあった。けれどもいくら考えてみても、あえて壊してゼロから論理を組みあげていっても、結局そこの地点に答えは戻ってくるので、仕方なく僕はその答えというやつを口にすることにした。
「北の門から出てくことにするよ」
キノスケは口を大きく開けてぽかんとした後、「うえーまじかよ」となんともあきれた調子でこぼした。
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