[2] 妖精
「そもそも妖精使いって何がわりーの?」
街中をてくてく歩いていたところ、肩にのってるキノスケが尋ねてきた。
妖精使いは役に立たない――は言いすぎとして、なぜ安定した能力を発揮できないかについては、ちゃんと理由がある。決して僕個人が無能だからというわけではない。
「まず妖精使いと妖精の関係ってさ、友達みたいなもんじゃん」
「そうな、ちゃんとした契約とかは交わしてない、なんかいい加減な間柄だよ。そこが気楽でいいところだろ」
「まあそれについては同意するけど、そうじゃなくってさ。妖精使いの呼び出しに対して必ず妖精が応えてくれるとは限らないでしょ」
「こっちにはこっちの生活があって、こっちの都合があるからな。そんなの当然じゃんか」
「僕もそれが当たり前だと思ってるよ。でももうこの時点で、妖精使いがいつでもどこでも安定して同じことができる人材にはなりえないってわかるだろ」
もちろん妖精を呼び出す確率を上げる方法はあるにはある。
妖精使いは妖精をこちらに出現させる代わりに精神エネルギーを食わせている。その報酬を大きくしてやれば妖精が応えてくれる確率は多少上がる。
他にも普段から妖精との関係をよくしておけば、呼び出しに応じてくれる可能性は大きくなる。簡単に言えば仲いい相手の話なら聞いてくれることがあるということだ。
両方やったところで成功率100%には遠く及ばないが。
「前もって言っておいてもらえると妖精側としてはスケジュールあけられるぞ。明日の2時頃呼び出すんでよろしくお願いします、とか」
「いやいや君ら基本的に忘れっぽい上に気まぐれじゃん。その約束してても半分ぐらい守ってくれればいい方だと思うよ」
「うんまあそこのところは否定できないかな」
人間側としても事前にどのタイミングでどの妖精に助けを借りるか厳密に想定するのは難しい。それに予定変更で呼び出すことがなくなったら、めっちゃ関係悪くなることだし。
さらに言えば出てきてくれたとしても妖精はいつも同じ能力を発揮してくれるかわからない。人間にも調子の上下があるように妖精にだって調子の上下がある。その波が激しい。
例えばキノスケはわりと呼び出しに応えてくれる方だが日によってできることがまったく違う。
彼は胞子を一定範囲に放出する能力持ちだ。その効果は麻痺を引き起こすこともあれば、眠気を催すこともある。その程度の違いならまだいいが、時には食べ物にかけたらめっちゃおいしくなる粉を出すこともある。
それはそれで役に立つ。野宿がつづいて食事に飽きてきた時なんか特に。けれどもそんな具合だと妖精の能力をあてにして戦略をたてるのは極端に難しくなるのだ。
「とにかく妖精使いの力にはむらがありすぎるんだ。他の人とパーティーを組んで安定して仕事をまわすのにとことん向いていないね。僕自身はそういうものだと考えているから大きな不便を感じているわけではないかな。まあそんな風にざっくりとらえることができるからこそ妖精使いなんてものに僕はなったとも言えるかもしれないけど」
キノスケの疑問に答えているうちに広場までやってきた。特にここでなければいけないわけではなくて、それなりにスペースと座れる場所があればどこでもよかった。
ちょうどすいてたベンチに座る。
「それでどうするんだ?」
と聞いてくるキノスケに僕は
「せっかくだから妖精に決めてもらおうと思って」
と返した。
「お前ほんと主体性ないやつだな。これからだいじょうぶなのか心配だよ」
「確かに主体性はないほうだとは思うけど。なんとかなるんじゃないかな、多分」
先々のことについてちゃんと考えているかと言われれば考えてないが、今日と明日のことぐらいは考えてるから、それで問題ないと思いたい。
妖精を呼び出す。秘密の呪文も特別な道具もいらない。精神を通じて妖精界へと語りかけるだけだ。それで向こうが応えてくれることもあれば、応えてくれないこともある。
お、今日はなんかうまくいった。ずるりとエネルギーを抜かれた感じがする。集中するために閉じてた目を開けば、石畳の上に手のりサイズのちっちゃな狐、犬、狸の3体の妖精がいた。
「よう、久しぶりだな」
「元気してたか」
「俺たちに何の用だい」
それぞれ名前をコンキチ、ワンノシン、ポンタロウ。
ばあさんに占いならこいつらにまかせろと教えられていた。なんでこの3体なのかそれは古い伝承に従ったのであって、ばあさん自体も由来はよくわかってないようだったが。
特に急ぐ用事もないのでのんびりと旧交をあたためる。妖精使いをつづけていくのに妖精とのこまめなコミュニケーションは大事。時間があるならしっかりやっておきたい。
世間話のついでに僕がパーティーを出ていくことになった話をしたところ
「しゃあないしゃあない」
「追放は時間の問題だったと言える」
「むしろ今まで付き合ってくれてたやつらに感謝すべき」
というのが3匹の評価で、おおむね僕と一致していた。
それにしたってとうの妖精からもそのように思われてるあたり、妖精使いの技術が途絶えかけてる現状はいたって自然なものかもしれない。
少し寂しい。
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