【第4話 6】
夜が更け、愛月は迎賓館から代々木城郭、自宅へと戻る。
時刻はすでに22時を回っていたが、リビングで山のように積まれた誕生日プレゼントを次々と開けていく愛月はキングと金太朗からのプロポーズを思い出し、
「どうして二人は結婚したの?」と両親に質問した。
「愛しているからよ」とソファーで母は穏やかな声で答える。
愛月は疑問に思いながらも、
「愛しているって、なに?」と続けて尋ねる。
娘が捨てていく紙袋を拾う父が優しくはにかむ。
「そうだな……生きていて欲しいと思うことだよ。愛月がシバちゃんにご飯をあげるのは、生きていてほしいからでしょ? そういう気持ちだよ」
「なんとなくわかった」と娘は頷く。プレゼントでハムスターのぬいぐるみを見つけて心変わりだ。「あー、ゴールデンハムオだぁ! ママ、見て見て!」
「子供は国家の未来であり、守るべき光。お天道様が私たちに伝えていることね」
母の言葉に、ぬいぐるみを抱きしめる娘は不思議そうな表情で尋ねる。
「お月様じゃないの?」
「お月様はね、私たちが死んだときに、天国へと導いてくれるものなのよ」
愛月は驚いた顔をみせ、「へー、そうなんだ」と呟いた。
愛月と母親の会話は他愛のない話になっていく。
そして、ベッドに入った少女は疲れていたのか、数分でパーティーの余韻に浸りながら眠りに落ちた。すると、とある夢の世界へと誘われた。
「あー、忙し忙し!」
「なんじゃありゃあ! ウサギがしゃべってる!?」
城郭の敷地内で飼い犬と遊んでいると、赤いジャケットを着た、真っ白な小太りのウサギが現れたのだ。
そのしゃべるウサギが大きな木の下、小さな穴に入っていった。
少女と犬がウサギを追いかける。どんどん追いかけていくと、さらに大きな大木の中へと入っていく。ウサギは迷惑そうに少女をお茶会に誘った。
そこで少女はさまざまな動物たちと出会った。しかし、突如として地震が起き、お茶会の場でウサギが懐中時計を落としてしまった。そして、少女は目を覚ます。
兄の勇月が声を荒げて部屋に入って来た。「大丈夫か、愛月!?」
「お、お兄ちゃん……?」
重たい瞼をこすりながら、妹が返事をする。
「地震だぞ、逃げるぞ!」
兄の背中に乗りながら、愛月は揺れ動く城郭から脱出する。
「勇月、愛月、無事か!?」
敷地内に出ると、祖父の清太朗や使用人たちがいた。だが、両親がいない。
「父上と母上がいない……どこだ? まさか、まだ城の中に!?」
「パパァー! ママァー!」
屋根に飾る銀色の龍神様が落ちて破損するほど、代々木城郭は半壊していた。
「誰かァ! 誰かァ! グハッ……!」
大人たちが被災状況を把握しようとしていたとき、代々木神宮の方から悲鳴が響く。「何事だ!? 行くぞ」と、祖父が護衛官を連れて神宮へと向かう。
一行が神宮拝殿から本殿へと突き進む。廊下では心霊守護官が殺害されていた。
「そこの女よ、お前がやったのか?」
彼らのそばに立ち、窓から月を眺めながら、人間の心臓を食べる白い髪をした全裸の女がいた。怪訝な表情の老人に、その女は告げる。「私は魔女よ」
「魔女だと!? どうやって結界を破った、答えろ」
両手を重ねて、宝石眼となった清太朗の耳に後ろから小さな足音が聞こえた。
「まさか、愛月か!? こっちに来ちゃいかんっ!」
一瞬のよそ見、その間に女が力を解放する。
《
額が上下に開き、中から目玉が現れた。
「第三の眼!? お前はまさか……!?」
女が両手を伸ばすと、得体の知れない爆風が彼らを襲う。社の木壁が吹き飛ばされるほど強く、地震の影響を受けたのか、拝殿の屋根が飛んでいく。
崩壊した拝殿を通り抜け本殿へとたどり着いた愛月は、最愛の両親が倒れていた。
「パパ……ママ……!? 」
駆け寄った少女が見た二人は、心臓が抜かれた屍になっていた。
混乱と恐怖の闇が彼女の純白な心霊を覆い、悲鳴が口から溢れた。
「神々を裏切り、愚かな世界を作るとは……なんて、人間は愚かなのかしら」
少女の叫びが響く中、三つ目の女は城郭の屋根に乗り、人々の住処を見下す。
「今まさにこの国を、大地を破壊しようとする愚かな人間たちよ。それでも、わたしはあなたと会えるその日まで、あなたから受けたこの愛で、大罪を背負う人間をも救いましょう。あの日の誓いを果たすためならば、喜んで悪になりましょう。
噴かぬなら されど愛そう 富士の山 千代の契り、天の川を超え」
右手に握る白光する刀剣を星が輝く夜空へと掲げれば、もくもくと雲が広がる。
《
「怒れ、神よ。
晴れ渡る紺碧の夜空か混沌の闇へと包まれ、愛の喪失を嘆く少女の声をかき消すよう、降り注ぐ雷鳴と豪雨が響き、江戸の時空を白金に輝く龍が舞った――。
そして、桜ノ宮愛月が目覚めた。噴水のよう涙が噴く。
顔を伝う悲痛な水の流れは、やがて憤怒へと固まっていく。
「パパ、ママ……あんのォ、魔女がアアアアッッッッ!!!!」
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