【第3話 7】
そこはまるで西部劇の世界だ。
カウボーイ姿の近藤愛之助に肩を担がれた少女の視界には古びた木造建築が立ち並び、軒先には風鈴や古い看板が揺れている。
少し遠くを望めば乾いた荒野が広がり、遠くには山々が連なり、真っ青な空が頭上に広がっている。
「近藤さん、ここどこ?」
「魔界だよ。ほら、俺って国家アイドルだからさ」
国家アイドルがする右手中指の指輪は魔道士の証でもある。近藤は霊道士と魔道士の二刀流だ。
「でさ、愛月ちゃん。あのライオン、なに? ケダモノ、マモノ? もしかしてバケモノですか?」
「ごめん、わからない……」
「そっか、わかった。ひとまず、休んどいて」
近藤が家紋『下り藤』のマントを少女にかけて軒先の椅子に座らせたとき、突如、向かいの飲み屋が轟音とともに崩壊した。
その瓦礫からバリバリバリ……とオレンジ色の電気をまとう心霊保安官が顔を出す。「アブねぇ……マジで死ぬかと思ったぜ、兄貴」
慌てて近藤が引っ張り上げる。濃緑制服が埃まみれだ。
「聖夜、大丈夫か?」
「なんとかかんとか……あいつ、マジでやべー。魔王レベルだわ、あれ」
指差す先に、黄金色の霊気をバチバチと漂わせ、こちらの様子を窺う金鎧の獅子がいた。魔界へと戦いの場所を移したあと、部下の足利聖夜が獅子と戦った。
だが、右回し蹴り一発かすっただけで彼は吹き飛び、飲み屋一軒を犠牲にしたところだ。
「兄貴、あいつなに? ケダモノじゃないっしょ?」
「迷子の子猫ちゃんかな。魔界にハマって、あら大変って!」
「つまんねぇギャグかます暇あったら、あのにゃんこ丸を滅霊してくださいよ!」
「近藤愛之助の人生に、女や子供、動物を痛めつける習慣はございません!」
「バケモノ相手に何を言ってんすか! あのにゃんこ、ぜってぇ名の知れた落武者のマモノでしょ! マジで威圧感ぱねぇし!」
聖夜の単語に獅子の足が止まり、毛並みが逆立つ。逆鱗に触れたようだ。
「このオレが落武者だと……ニンジャごときがサムライを語るなアッ!」
荒野の風が乱れ吹く。獲物に向かって荒々しい咆哮を上げる獅子は両腕にエネルギーを溜める。近藤は危機を察知する。「聖夜、二手に分かれるぞ」
「合点承知の愛之助!」
「3,2,1、ゴー!」と上官が合図を送った。
近藤が右手に回り、部下が左手に回る。
その獅子の目線はネズミのよう逃げ惑う部下を狙う。近藤はその隙を突く。
「そっちは外れだぜ、サムライにゃんこ丸!」
腰のガンホルスターから愛銃、ゴールドマグナム442を抜いた。
《
一発の重低音が荒野に響く。放たれた金色の弾丸は魔宝石と霊魂に共鳴し、守護霊である金鷲へと変貌する。
金剛石をも切り裂く翼が獅子の首筋を狙う。対する獅子は両手を戦車の砲塔に見立て、溜めに溜めたエネルギーを、向かってくる金鷲へと解き放った。
《
雷鳴のよう轟音と光線が木っ端微塵にその守護霊を消滅させた。
建物や樹木がその余波で崩壊し、辺り一面に土煙が舞い上がり、余波で大気が荒れ狂っている。
「鬼だ……これが鬼王じゃん……バケモノレベル3だよ、兄貴ィッ!」
伝説級の鬼王だと狼狽する部下に、上官が「落ち着け!」と一喝する。
「赤羽に放牧してみろ。地図から赤羽が消えるぞ! 俺たちで絶対に止めるぞ!」
「マジかよ……勝ったらA5ランクステーキ奢ってくださいよ!」
「そうだな。勝ったらステーキパーティーだっ!」
再び二人は戦闘態勢をとる。とはいえ、伝家の宝刀とも言える、近藤家を守護してきた金鷲を滅ぼされては為す術がない。
荒廃した街並みの中、脳みそをフル回転させるカウボーイに、一匹の人狼が声をかける。「近藤さん……私も戦います」
「愛月ちゃん!? いや、その傷じゃ無理だ」
近藤が指摘する通り、彼女の左目は潰れて血が流れ、左脇腹を抑える手負いの味方は足手まといになるだけだ。
「……仮面です。あのライオン、仮面をつけていたんです」
「仮面!?」
「男が仮面をつけて、ゴリラのケダモノになって倒したら、あーなったんです」
懸命に記憶をたどって情報を伝える。「仮面って……仮面融合したってこと!?」
「そうとしか考えられない……」
「ナニモノなんだよ……もしや、
ギロリ、強力な技の反動からか、仁王立ちする獅子の霊気が一気に薄くなった。
普段から退治するケダモノやマモノに感じるほど弱体化していた。
「兄貴、だったらその仮面を剥がせばどうにかなるはずだよな?」
「いや、そんな単純じゃないでしょ」
「いーや、オレがオトリになります。その隙に兄貴が顔面ぶん殴って仮面をぶっ壊してください!」
「待って! オトリって、あんなの食らったら死んじゃう!」
「死んだら死んだ、だ。オレみたいな平民が何百万人死のうが、世界は廻り続けるんだし、安い命だろ。でも、お嬢さんが死んだらダメなんだ。頼んだぜ、兄貴ィ!」
足利聖夜が金鎧の獅子に突っ込む。自慢の足技を繰り出した。後頭部に直撃した。
だが、なぜか獅子は視線を向けるだけで反撃する素振りすらない。
逆に言えば、絶好のチャンスだ。
「今だ、兄貴!」
「おうよ! 御用改め、悪霊退散! お天道様によろしくな!」
近藤は獅子の正面に回り、黄金の霊弾を顔面に撃ち込んだ。
ばりん! 獅子の顔にヒビが入った。
「やった……のか?」
「兄貴、ナイスショット! さすがカウボーイ、赤羽のスーパーアイドルだぜ!」
「いや待てよ、聖夜……様子が変だぞ?」
三人の目の前で獅子の全身が真っ赤に染まり、そして、大爆発した。
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