【第3話 6】
ケダモノは雄叫びを上げて、再び人狼に飛び掛かるが、脇腹を斬られる。
悲鳴を上げて倒れ込むが、すぐに立ち上がる。追い打ちをかける人狼だ。
何度も何度も氷の刃で斬られ続け、猛獣は倒れ込み、淀んだ血を垂れ流す身体は痙攣する。黒みが強い血色を振り払って、その人狼は刃先を向ける。
「あなたの人生には同情するけど、犯した罪には同情しない。悔い改めよ、堕ちた人間、その魂よ」
スクールバックから常備する小さな筒を開け、中の霊符をケダモノの額に貼った。
「えっと……滅霊術式の呪文って、どう描くんだっけ……丸に逆五芒星で、ごにょごにょだったはずよね」
うろ覚えな術式を適当に書いたせいか、その猛獣はのたうち回った。
「ヤッバ! やっぱ間違えたか。寧々ちゃんが来るまで氷漬けにしとけばよかったなぁ……ううん?」
悪霊が霊符に吸収されなかった。むしろ拒絶反応か、どんどん光っていく。
だが、黒くなかった。その光は黄金色なのだ。何かがおかしいと不思議がる。
「金色って、近藤さんや千尋と同じ色じゃん。なんで……?」
その理由はわからない。しかし、その光が大きな身体の中へと収縮していくと、桁外れの霊力を持つ猛獣に変貌していると理解できた。
「なんで……なんで、ゴリラからライオンになったの?」
金色の霊気と甲冑をまとった人型の獅子は、まさに百獣の王として桜ノ宮愛月の前に、英雄的な存在感と魔王的な威圧感を放ちながら表れたのだ。
筋骨隆々とした
対峙する人狼は恐怖感を必死に押し殺す。心臓の鼓動が一気に速くなっていく。
「あなた……ナニモノ?」と、震える声で尋ねた。彼は堂々と告げた。
「この世界を救う王だ。オレがお前の罪を背負ってやる。だから、お前はオレの力となれ」
「まさにオレ様。いや、レオ様って、そんな冗談かます暇ないよね」
獅子が瞼を下げた隙を見て、氷の太刀を構えて人狼が斬りかかる。
だが、獅子は両手を広げて何やら唱えた。
《
振りかかる刀を右回し蹴りで粉砕する。
「うそ!?」と驚く人狼の顔面に、獅子の剛腕が飛んでくる。
身体が吹っ飛び、館内の壁にのめり込んだ。
たった一撃、されど一撃、気を失いかけ、視界がぼやける。
仮面が剝がれ落ち、人間へと戻る。
全身が痙攣する桜ノ宮愛月は自覚する。
「私、死ぬの? こんな……こんなところで死にたくない……」
涙があふれ出る。体が動かない。満月の下で目撃した、あの魔女の微笑が脳裏に焼き付く。「死にたくない……死にたくない……赤羽なんかで死にたくないッ!」
「赤羽なんかで、というのは撤回してね、愛月ちゃん」
少女と獅子が映画館入り口を振り向く。
立っていたのはテンガロンハットがトレードマーク、一人のカウボーイだ。
「だれ……こんどー、さん?」
「よくぞ聞いてくれました。赤羽神社に赴任して早3年、慈愛の美徳を信条に、愛する赤羽のためならば、恥ずかしい気持ちをごまかして、今日もウナギを食って元気マシマシ、弱きを助けて強きを挫く俺の名は――」
ノーガードな近藤に獅子が霊力を解放し、戦闘態勢を取る。
近藤は右手中指の指輪を向ける。「まだ話している途中でしょうが、この脱走ライオンめッ!」
《
獅子が瞬きをすると、右手中指の指輪が作りだした幻影世界、日本合衆国には存在しない光景が広がる。「さあさあ、決闘のお時間だよ、子猫ちゃん!」
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