【第2話 5】
赤羽神社の国家アイドルが太田家の夫婦喧嘩を止めているとき、駅から徒歩5分ほど、赤羽東口商店街の中に建てられた、私立赤羽未来高校ニュースメディア部ではとある報告が行われていた。
「じゃあつっちー、お願い」
部長の
「それでは始めます、今年の元旦に起きた《池袋国家アイドル殺人事件》の調査結果を報告します。事件は池袋駅西口公園で起きました。被害者は国民的人気を誇る国家選抜アイドルグループ《れいちぇるず》のメンバー、
新年早々の殺人事件、しかもれいちぇるずのメンバーともあり、日本全国のアイドルオタクが悲しみ、現在までに国内外の自殺者は100人を超えます。犯人は未だに逃亡中です。
アイドルを殺す死神が犯人だ、とネットで噂になっていますが、日本連邦警察と護神庁が広域最重要事件と指定したため、俺たち下々な平民にはまったく情報がありません、以上!」
報告を終えた土田がテーブルのおやつ、シュークリームをかじった。沈黙が数秒間続くと、テーブルの向かい中央、山本理沙が気合の足りない部員を叱りつけた。
「甘い甘い甘い、あまああああああああいいいいいいっっっっ!」
「このシュークリームのことか、リサリサ?」
土田はとぼけながら頬張る。その態度が部長の語気を強くさせる。
「どうしてあんたはいつもいつもいつも、UIBの情報しか報告しないの!」
「だって、サーフィンしても陰謀論ばっかじゃん! UIBで質問しても、とんでも陰謀論を混ぜてくるからわからねぇし……だったら、暇人がせっせと編集したグロペが信用できんじゃんって、タコ親父が言うんだもん!」
と、土田が指さす部室の壁かけディスプレイには白ハチマキを巻いた赤いタコが映る。UIBとは、オープンAIサイト『Universal Intelligence Base』のことで質問に応じて最適な回答を導き出す。だが、信憑性は利用者が判断しなければならない。
「せやかて、ワイはいうたやん。リサリサはそんな甘い女やないって」
「おいおいおい、昨日と言っていることがちげーぞ、タコ野郎」
このタコはニュースメディア部のAIキャラクターだ。タコ親父といい、関西弁をしゃべる。
「一緒やで、つっちー。夜更かしして、ちゃんと調べたほうがええっていうたで」
山本の目が細くなる。「……サボったの?」
「サボってねぇって! 本当にこんなもんしか情報がないんだって。副部長もなんか言ってくれよ」
山本の隣席、褐色肌でぽっちゃり体型が自慢のガルシア
「たしかにつっちーの言う通りね。ワタシも調べたけど、本当に情報規制されていて、殺されたのは別人とか、メンバー同士が殺し合ったとか、個人ブログは真偽不明な情報ばっかりでアフィ稼ぎばっか。読む価値なし!」
タコ親父がハチマキを巻き直しながら同情する。
「せやかて、リサリサ。つっちーは悪うないで。本当に悪いのは、アイドルを殺した犯人やん」
「その犯人を知るために、改めて調べたんじゃない。私たちのような非霊能者は何が起きているかわからない立場。はっきり言って、不公平で不平等でしょ?」
「せやな。霊能力者の犯罪ちゅーのはだいたい卑怯やな。透明になって露天風呂を盗撮するとかやし」
「ちょっと、つっちー、聞いてるの?」
土田はおやつに夢中だった。二つ目に手を出すところだ。
「しかし、このシュークリームうめぇな。どこで買ったの?」
隣席の黒縁メガネ男子が答える。名前は
「生徒会長からのお礼。ほら、期末テスト流出事件を解決したからさ」
「なーる! まさか生徒がハッカーを雇っていたとは驚いたぜ」
「おい!」と、注意を背ける男子に、女部長がご立腹だ。
「おれ、リサリサの彼氏じゃねーもん、聞いてないでーす!」
「しっかり聞いてんじゃねーか!」
カーッと山本の顔が紅潮して、掌底で殴るようシュークリームを押し込んだ。
顔がクリームだらけになった土田もまた顔を赤くする。
「なにすんだよ、リサリサ!」
「あんたが、彼氏ができないワタシをイジってきたからでしょうが!」
「イジってねーよ! からかっただけじゃねーかよ!」
「やっぱ、イジってんじゃねーかよ!」
「もーさ、二人とも付き合っちゃえよ」
呆れながら言ったのは、山本から見て向かい右端に座る白馬だ。
「白馬に乗った畜生メガネ、今なんて言った?」
「俺の名前はイジらないでください。恥ずかしいんで」
「このやさぐれメガネ、恥ずかしいことを言ったよな、リサリサ」
「ええ。異世界で二人きりになっても、つっちーとは付き合わないから」
「どさくさに振るなよ、冗談でも傷つくわ!」
「おいおい、つっちー。リサリサのこと好きなん? スクープやで、スクープやで。これ、クラスのみんなに――」
土田がタコを画面ごと消した。このタコは話をややこしくするからだ。
ニュースメディア部は学校ニュースから、赤羽での出来事や時事ネタ、エンタメ、スポーツまで広く浅めに情報を配信している。
タコ親父は幅広くネット情報を拾い集めているため、下世話なネタが大好きなAIキャラクターに成長してしまった。
「し、してねーよ! 勘違いすんなよ!」
顔を真っ赤にさせて反論する土田だ。
「だから、付き合っちゃえよ。うちはアイドルみたく恋愛禁止じゃないからさ」
「黙れ、白馬に乗った畜生メガネがッ!」
「だからイジるなって、人の名前をさ!」
「じゃあ、幸せメガネはどうだ!」
「それは悪くない」
「まーまー、お三方とも落ち着きましょうよ。仲良く、仲良く」
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