【第1話 3】

 東洋の島国、日本合衆国は自然豊かな海洋国家だ。

 この国の転換点は一世紀ほど前に勃発した江戸幕府に対する『日本革命』だろう。


 日本革命とは、殿様による独裁政治に不満を持つ自由連合軍と、殿様率いる江戸幕府軍による戦乱のことだ。


 大規模な内戦に勝利した自由連合軍は自由と平和を標榜する日本合衆国を建国し、統治機構として日本連邦政府を設立した。それまでの徳光家による君主主権制武家政治から君主象徴制民主政治へと一新する。


 国土を東京と西京の二大首都とする道州制で分け、国政を主導する『日本連邦議会』と国体を継承する『日本朝廷』が国家を運営していく国家体制となった。


 日本合衆国における歴史は日本昔話から学ぶことが多い。

 代表的な昔話、『三太朗伝説さんたろうでんせつ』は国の成り立ちを知る上で重要な教養となる。


 三太朗の末裔である桃ノ宮、桜ノ宮、梅ノ宮の三ノ宮がかつて日本大陸を襲った龍神様を退治しなければ、龍神様のお怒りによってこの大陸は大海に沈んだと言われるからだ。


 龍神様は人々に恐怖を与えたが、人々は龍神様を怒らしたのは自分たちだと反省し、二度と龍神様を怒らせないようにと美徳の象徴とし、全国の神社で龍神様の鱗に見立てた龍鏡を崇めている。


 英雄となった三ノ宮の絆はそれぞれ桃、桜、梅の花びらをモチーフにした、三角形が連なる国家紋章『三花紋さんかもん』でもわかる。


 日本朝廷の長、『天守様てんしゅさま』は代々三ノ宮の子女、姫様から選ばれる。 


 天守様は自由と平和を含めた美徳の象徴として、花の都こと江戸特区内、かつての殿様の城、江戸城内の大天守閣および広大な御殿が天守様の居城となった。


 また、江戸城大天守閣に隣接された中天守閣には霊力が扱える霊能力者(通称『霊道士』)を管理および監督する護神庁ごしんちょう本部が設置され、小天守閣は霊道士養成学校『霊道学院れいどうがくいん江戸本校』がある。


 江戸城は州区の各支城とともに日本国宝とされ、江戸幕府による独裁政治の戒めに江戸自由平和公園と、日本革命での殉死者を慰霊する江戸大聖堂が建立された。


 江戸大聖堂には、ガイア共和国で自由の象徴を示す時計台を模した『エド・ベン』という巨大な時計台と鐘が付属され、今日も午後3時の鐘を鳴らす――。



 護神庁の最上階、護神庁長官室は少々騒がしい。

「やれやれ……相変わらず仲がいい兄妹だ」

 ゴクリ、と白髪が目立つ老人が奥歯に挟まった小豆を冷たいお茶で胃に流す。

 

 なに、秘書が差し出す桜餅に文句があるわけではない。護神庁の長官にして二人の祖父、桜ノ宮清太朗さくらのみやせいたろうは桜餅をつまみながら痴話げんかを眺める。

 視線の先、桜ノ宮勇月ゆづきは妹の愛月あづきに向かって、足を揃えて頭を下げた。そう、土下座だ。




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