第7話 上級生

俺が伯爵様に目をつけられた日から次の日……。


 

 まだ6時にも満たないほどの早朝でおれは学院の敷地のなかで日課のトレーニングをしていた。

 

 いやー。やっぱり早い時間からの運動は気持ちいですね。


 ちなみにあの後きちんと宿に行って忘れ物は回収しておきました。

 あせった。あせった。


 そんな感じのことを思いながら自身に課された内容を淡々とこなしていく。



 「一通りやったかな。近くにあるベンチにでも座って休憩するか。」


 そう独り言をつぶやき、目の前にあるベンチへ腰掛ける。

 

 ふぅーと息を吐きながら両腕をだらんと伸ばし、自身の顔にタオルをかぶせる。

 疲れたなと思いながらボーっとしていると頬のほうにひんやりとした感触が伝わる。


 「どうもー差し入れでーす。」

 「えっと……あなたは?」


 見上げてみると首まで伸ばした赤いショートカットをもつ女の子がそこにいた。手には小さな容器に入った飲み物らしきものがある。


 背格好からして同級生だろうか。この時間帯でも俺と同じように外に出てるやつがいるなんて。


 「わたし?わたしは2年のミリエル・ガルディエーヌだよ。ミリーって呼んでくれたら嬉しいな。よろしくね。」


 ニコニコとした笑顔でミリー先輩は俺に向かって元気よく告げる。

 

 ていうかこの人上級生だったんだ。小さかったから同級生かと勘違いしちゃったな。

 そんな失礼なことを思いながらミリー先輩のほうに顔を向き直すと


 「かくいう君はもしかして噂のコネで受かったアレスくん?」

 

 なんとその勘違いは2年の方まで広がってたみたいだ。これはやばいな。


 「いやー。それは嘘というか、勘違いというか……とにかく本当のことじゃないんですよねー」


 そう言ってその噂が真実ではないことを必死に伝える。

 これで信じてくれればいいけども……


 「別にそんな焦らなくてもいいよ。2年の方でも信じてる人少ないし。この学院がそもそもコネで受かるような生半可な場所じゃないってみんな知ってるからね。」


 俺はその言葉に安心し、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 この調子だと3年の方でも大丈夫そうだな。上級生まで信じられてしまうとこの先の生活が厳しいものに変わってしまうからな。よかった。


 「まぁわたしはそんなところなのに一般で入ったんじゃなくて推薦で合格した君が気になって仕方がないんだよ。アレス君。」


 ニコッと可愛らしい笑顔を俺に向けてそう言い放つ。

 

 これが普通の状況だったら飛んで喜ぶほど嬉しい場面だろうが、ミリー先輩の目は笑っていない。正直いうとこの場から今すぐ逃げ出したいような恐怖が先輩にはある。

 

 だけど俺も男だ。ここで逃げてしまったら負けだ。


 そう決意してめげずにミリー先輩へ勇気を持って告げる。


 「じ、実をいうと俺本人もよくわかってないんですよね。なぜ推薦をもらえたか。父親がここの教師と知り合いだったからもらえたとは聞いたんですけども。もしそうならあながちコネっていうのも間違ってないのかもしれませんね。」


 ハハハと笑いながら自分の中の恐怖を押し殺す。


 この先輩見た目で判断できないな。

 発言の一つ一つにかなりとげがある。


 「アハハ!冗談だよ!そんな怖がらなくてもいいよ。アレス君っておもしろいね。」


 よくわからながこの先輩に気に入られてしまった(?)らしい。

 

 先ほどの雰囲気はとっくに消えていて、優しくほんわかとした感じになっている。

 最初からそうしてくれれば関わりやすかったのに……。


 そんな感じで愚痴を吐いているとミリー先輩が後ろのほうを向いて


 「やらないといけない用事があるからそろそろ帰るね。じゃあまた機会があれば!」


 ミリー先輩はそう元気よく言って去っていった。


 「そういえば先輩はここで何をしていたんだろう。っといけない。俺もそろそろ戻らないと。」


 俺はこれからの授業に備えるため、駆け足で寮へと戻っていくのだった。

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