第7話 移民とご飯と - 後編

「なあビット、少し良いか?君の『前に居た国』の詳しい話を聞きたいのだが。」


 僕は急に国の事についてシュウヤに質問されて少しびっくりしている。あまりにもいきなりだからだ。


「...え?詳しいことですか?」


「うん。王のこととか、国の成り立ちとか。知っていることでいいんだ。」


「わかりました...教えましょう。」


 この国は今の王によって作られた国である。名前を「イセ王国」という。まだ歴史は2年と浅いが、色々なことに挑戦していた。その姿をみて認めた者が少しずつ国民になっていき、少し大きい国となった。

 このように、初めの頃はすごく良い王様で民にも平等ないい人だった。それこそシュウヤ様と同じように料理が好きで、よく作っては国民に積極的に振る舞い、感想を求めていた。

 このまま良い国が永遠に続くと思っていたが、ある瞬間王は突然変わってしまったのだ。自分で色々なことに対して違うと部下に激怒し、さらには国民にまで手をつけはじめたのです。

 いきなりすぎて初めのうちは皆戸惑っていましたが、もう逃げるしか無いと誰かが言い出し、今に至るのです。


「その王の名前は、『シンジ』と言います。とまぁ、こんなところでしょうか。」


「シンジだって!?まさか...」


「え?彼を知っているんですか?」


「...バレット、前、お前は『地球から来た転生者を知っている』と言っていたな?そいつは『シンジ』という名前だったか?」


「ああ、そういう名前だった気がする。俺達3人で冒険をしていた頃、そいつについて話を聞いていたんだ。なんにしろ珍しい世界からの転生者だったらしいからな。大体そういうのは覚えてる。」


「やっぱり...!そうだ、『シンジ』は俺の同級生だったやつだ!」


 この言葉を聞いてびっくりした。目指すところはシュウヤと良く似ていたが、まさか知っている人だったとは...僕からも彼のことを聞いてみた。


「じゃあ、あなたよりも早く死んでしまったということですか?」


「うん。あいつも事故で死んだ...もともとは俺をライバル視していたらしい。料理の腕はあいつもすごかったが、いつも料理勝負するとほとんど僕のほうが勝っていたんだ。」


 更に話を聞くと、ある日も料理勝負をしたらしい。その時はまたシュウヤ様が勝った。いつもならどうってことなかったらしいがその時は突然苛ついて家を飛び出して行ったところ、車に轢かれたらしい。なんとも恵まれない人だ。


「あいつはいつ怒るかわからないって言われてみんなから遠ざけられてて。友達は僕しか居なかったんだろうな。だからこの世界に転生して国を管理するようになったんじゃないか?」


 私はシンジ様の部下として、もっと話を聞いてあげれば良かったと後悔している。でもいつも明るい雰囲気だったから、特にそういう所に異常はないと思っていたんだが。


「それは私の失敗ですね。もっと話を聞くことができていれば...きっとシンジ様は...!」


「でも、そんな事わからないよ。あいつが話を聞いてほしいんだとか、見ただけでは分かるはずがない。」


「ではあの時どうしていれば...」


「昔のことを後悔しても仕方がないよ。時はいくら祈っても修正できないんだから。でも人はそういうことが出来ないからこそ色々な事を考えて後につなげることが出来る。だから、今からでも遅くは無いんだよ。」


「...!」


 ハッとした。僕は大切なことを忘れていたようだ。僕は今まで「反省」というのをしていなかった。今までシンジ様に怒られても後悔しかしていなかった。次につなげることが出来なかった...


「...じゃあ、私に今すべきことを教えてください!恥ずかしい願いではありますが、どうすれば僕はシンジ様の事を立ち直らせる事が出来るのでしょうか?教えてください...」


「今こそ『飯』が役に立つのではないか?」


「...え?」


◇◇◇


 僕はシンジ。この国を作ったものである。が、今は国民が誰も居なくなって僕1人しかいない。あの時の感情で怒ってしまったばかりに...ほんの一瞬の出来事がすべてを台無しにする。もはや僕はこの世界に生きている価値はないのか...やっぱり王に似合っていないのか...


「やっほーシンジ!」


 なんだ、なにかどこかで聞いたことのある声だな。でもなんでここに僕以外の人が居るんだ?


「ってシュウヤ!それと、ビット!?どうしてここに?」


「...一緒にご飯食べよ!」


 袋からは入れ物いっぱいに入ったご飯とおかず。手作り感が満載だ。いきなりだけど嬉しかった。でも、でもなんで...僕なんかのために...


「どうぞ!」


「うん...」


 僕は一口食べてみた。とても美味しくて、懐かしい味だ。これは確か地球に居た頃の好きな料理だ。僕はいつの間にか涙をぽろぽろと流しながら黙々と食べた。


「...ごちそうさま」


「はい!」


 ご飯は美味しかった。とても。でもどうしていきなりこんな事をしてくれるのだろうか...僕はもう必要とされてないのでは無いのか?


「僕は国民を捨てたもはやゴミのような王なんだ。なのになんで...こんな事をしてくれるんだ?」


「君を考えてくれている人が居るのを伝えるにはこれが一番いいかなと思ってね。ビットだって君のそばに居たのに話を聞いてあげられなかったって後悔してるんだよ。ただ少し次に繋げられなかっただけ。」


「え?」


 シュウヤの言葉を聞くまで僕は気づかなかった。確かに困っていたことばかりだったが、あの時は人に助けを求めるのは王として恥だと思っていた。だから僕は一人でさまよっていたんだ。


 でも話を聞こうとしてくれる人が居たんだ...


「僕だって後悔している。国民を困らせてしまったこと。それと、仲間を頼らなかったこと...」


「うんうん、わかってくれれば良いんだよ。でも去ってしまった人はもう多分戻らないだろう。だからお願いがあるんだけど、この国を僕の配下みたいにして連邦国みたいなのを作らないか?」


 シュウヤの提案を聞いて僕は少し戸惑ってしまった。こんな国が配下になっては風評被害も受けるだろうに。


「良いのか?僕の国なんかが君の国の配下になってしまって...」


「むしろ歓迎だよ!僕の国は人口の増加で急激に土地が足らなくってね、可能なら今からでもこの国を整備してあげたいくらいだよ。」


「私も罪滅ぼしに働きますよ!シンジ様!」


 シュウヤのこの笑顔は、とても真っ直ぐな気持ちを表しているように見える。そして守るべきもの、大切にすべき人もようやく見つかった。僕だって国のため、友達のために努力したい。


 でもいくら心に決めても今まで悪いことをしてしまったことは訂正できない。だから今はシュウヤに協力してもらおう。彼ならきっと、いや絶対にいい国にしてくれる。


「...わかった、良いよ!じゃあ早速始めてくれよ。シュウヤ!」


「ありがとう!」


 僕の人生はシュウヤの再開によって新しい節目を迎えることが出来た。次こそは絶対にいい国にしたい。いや、するんだ!絶対に!


「そういえば、昨日のプリン少し余ってたな。それくらいしかすぐ用意できないけど、せっかくだしお祝いがてら食べる?」


「そうだな。じゃあ、それもよろしく!」


 友達はとても大切な存在だ。

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