第6話 移民とご飯と - 前編

「そう言えば国ランキングってどうなってるんだろう...?」


 僕はふと思った。そう、最近忙しすぎて忘れていたのだ。僕は地図の画面から移動して確認してみた。


「なんか、上がってね?」


 画面には「650/1000位」と表示されていた。そう、だいぶ上がったのだ。そして649位との差はわずか30人、すぐにでも通り越せそうなランキングだった。


「あとなんだこれ?『報酬が来ています』?」


 僕は思わずそこを押して「報酬を受け取る」を押した。すると色々なものが落ちてきた。まずはビギナー卒業報酬として大きな鍋。次に国民100人突破記念報酬としてガスコンロ。100人突破ごとに報酬があるらしく、大量のじゃがいもや人参、玉ねぎ、豚肉。残りはすべてスパイスだった。


「カレーを作れって言ってるようなものじゃん...でもなんで食材ばっかり?鍋までご丁寧に...もしかして個人個人の好きなようにカスタマイズでもされているのかな?そうだったら嬉しいな。よし、今日のお昼にしよう。」


「シュウヤ様ぁ!」


「ああヒカルか、なんだ?今日のお昼はカレーライスにするつもりだけど...」


「それどころではないんです!今ざっと100人の人が門の前に居るんです!しかもどいてくれる気配もなく。さらに『食い物をくれ』と言っているんですが、どうすればいいですか?」


「飢えている人がたくさん居るのか...じゃあ、全員門を通してここに来るようにしてくれ!」


「は、はい!」


 飢えているなら仕方がない。今日早速もらった食料と鍋とガスコンロを使ってカレーライスを振る舞おう。お米はまだ取れる時期じゃないから、パンを渡すようにしよう。


「リサ、サラ、バレット!手伝ってくれないか?」


「「「はい!」」」



 数分後、例の100人ほどの人たちが来た。本当にみんなかわいそうな扱いを受けていたかのような感じだった。飢えているだけでなく傷を至る所に負っている。


「皆さん。もうすぐご飯が出来るので並んでください!あと数十分くらいかかりそうですが...」


 100人の群れの中から一人青年が出てきた。どうやら人々を連れていた長のようだ。


「今日はご飯を用意していただき、本当にありがとうございます。私は『ビット』と言います。私達は前に居た国が崩壊しそうになってきたので、皆で分散して集団移住を目的に旅をしていました。そこで見つけたのがあなたの国です。今日は本当に感謝しています」


「いえいえ、どうぞ休んでいってください。」


 どうやら話を聞くと、前の国が経済的に破綻して崩壊寸前だったらしい。しかもその国は独裁国家で、王が他国の援助を一切認めなかったので、今のような形になったらしい。なんでそんな事をしたのだろう。自分が良ければ全て良いみたいな...最悪な王だな。


 ...僕らはカレーライスをその人たちに配った。とても美味しそうに食べてくれた。あとご飯がなかったのでパンを配ったら、それも好評だった。僕はこの者たちの居場所はここ以外無いと思っていた。ワズも言っていたが、ここまでオープンな国は少ないという...


 前のワズとの電話


「...しかし、この国は本当に開放的だな。私の元部下がいきなり来ても怪しむことすらもしなかった。」


「ええ、この国ではどんな人でも、人じゃなくても歓迎していますから!」


「それを管理するのは大変だと思う。だから、お前は誇りを持って良いのだぞ。」


「...はい!」



「この茶色くて少し濃いスープ!とても暖かく、具材も大きく切られている!とてもうまい...!」


「うん。このパンも上出来だ。あの時配給で配られたパンよりもしっとりしていて美味しい!」


 やっぱり全員に好評だ。この世界にとっては珍しい料理だと思うが、皆お腹が減っていたからか、バクバク食っていたな。さすが日本でも人気の料理。


「とても美味しい料理をありがとう!お代...」


 彼らはとても困っていた。多分お金がないのだろう。


「...いや、お代は良いよ。その代わり、ここに住んで働いてくれないか?この国のために働いてくれるならお金はとらないよ。大丈夫!アットホームで和気あいあいとした職場なので!」


 ...これは流石に言い過ぎだったかな?


「...この美味しい料理。さらにこの国に住まわせてくれると!本当に感謝してもしきれない。恩をきっちり返せるように、誠心誠意働くことを約束します!」


「そう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、こっちに来て。働くのは明日からだから、今日は休んでくれ。あ、僕は『シュウヤ』っていうから覚えておいてね!」


「「「はい!!」」」


 すごく真面目に働いてくれそうだ。そして新たに住民登録をしたことによって、国ランキングが620位まで一気に上がった。一気に上昇したお祝いとして運営から転生前にある好きなものを一個だけもらえるという権利を得た。なにに使おうかな。



 後日、僕は100人の適正を調べてみた。そのうちの20人を警備員としヒカルに指導を頼んだ。30人を料理人とし、それぞれのレストランに就かせた。残りの20人は前居た国の特産品を製造して売ってもらい、30人は国の仕事に就かせた。


「ビット!調子はどうだ?君には国の仕事についてもらったが、いい感じに進んでいるか?」


「はい!とてもいい調子です!あとこの国の住民を管理するのに数字と文字の組み合わせを使うのはいいアイデアだと思います!前居た国では住民のとこなど後回しの後回しでしたからね...」


 なるほど。その国は、よっぽどひどいんだな。崩壊もするし、逃げたくもなるだろう。せめて僕の国では幸せに生活してほしいな...


 僕は他のところも見てみた。


 珍しいお面や色鮮やかなできたての置物が置かれていた。


「あなたの前居た国の特産品って結局何だったの?」


「はい、前居た国では神への信仰が盛んに行われており、それに合わせた幸運グッズや色々な運気を上昇させるお面や色とりどりの動物の置物を作っています。」


「なるほど、占いで稼ぐのも良いかもしれないなぁ...」


「占い師はあちらに居ますよ。前居た国とその隣国では結構有名で当たるとされている占い師なんですよ!」


 約100人の中で一人浮いているおじいさんが居たが、この人だったとは...少し驚いた。後その国は占いだけで収益を得ていたのだろうか?もしそうなら十分とは言えないが...


「やあ、シュウヤ様。わしは占い師の『ヴィル』と言います。今後ともこの国でよろしくおねがいします。」


「うん、よろしく!じゃあ何かあったら占わせてもらうよ!」


 「前に居たの国」の謎が深まるばかりだ。王は独裁者だったらしいが、その王は占いをやっぱり商売?それとも単に占いが好きで政治をすべてそれに任せていた?考えれば考えるほど難しくなっていく...なんとか聞き出せないかなぁ...そうだ。


「みんな、今日は国民全員でパーティーを開かないか?新しい料理を振る舞ってみたいんだ!」


「良いですね!ちょうどお腹が減っていた頃なんですよ」


「私もとても良いと思います!我が新しい王のつくるのもなら間違いは無いでしょう!」


 目的はさっき得た権利を使って地球からレシピ本をもらったので、日本料理をもっと経験してもらいたい事。また「前に居た国」の事を聞き出したい事の2つだ。


「よしきた!じゃあ早速テーブルを準備してくれ。後レストランの店員は全員僕の手伝いをしてくれ!」


「「「はい!」」」



 パーティーは乾杯から始まった。大人には日本酒を勧め、子供にはジュースを選ばせた。


「日本酒という酒はお上品な味だ。」


「スッキリしていていい味ね。」


「オレンジジュースおいしい!」


 そもそも目的として日本料理をもっと良く知ってもらいたいと言うのもあるので、まずは前菜的な立ち位置として「人参シリシリ」を出した。これは沖縄発の料理であり、卵と人参とあと色々な調味料で少し甘く炒めた料理だ。


「これはうまい!絶妙な甘さ加減が良いな。」


「これもまた何杯でもいけますね。」


 次はカツ丼を出した。ジャンルが少し違うが同じ「日本料理」なので良いことにした。あと前はお米が即座に用意できなかったので、丼料理でお米の良さを知ってもらうようにした。


「なるほど、これは肉だけでもお米だけでもだめですね。どちらも一緒にかきこむことによって美味しさが増んだな。」


「肉に卵をまとわせるのもいいアイデアですね。」


 いい感じにパーティーは進んでいった。料理は好評だった。僕はデザートのプリンを片手にビットのところへ行った。例の「前居た国」の詳しい話を聞き出すために。


「なあビット、少し良いか?」

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