第2章 世界の飯の基礎をつくる編

第5話 初めての商人

 僕はシュウヤ。今日もいつものようにサンジーフ王国の見回りをしていた。同盟を結んでから1ヶ月経った。あれから国の人口が僕ら合わせて1005人になった。中心街はとても栄えていた。国民からやりたい仕事を聞いて、それに合った役職を提供しているから、みんな悪いことは言わない。とてもいい感じに回っている。


 それと我が国は色々な人やモンスターを歓迎している。それもあってか今日も住民登録申請が50件も来た。とても嬉しいことだ。


 この国の食べ物を振る舞う約束だが、それは3週間くらい前に私がオルネジアの王都に出向き、直接作り方を教えてあげた...


「...このお米の上に、こうやって生魚を乗せてあげるんです。そして軽く握れば『寿司』の完成です。」


「なるほど、ですが生魚は安全なんですか?我が国の料理の衛生上、管理するのが難しいかもしれません。」


「大丈夫。このマニュアルに沿って管理と調理をしてくれれば、安全だと思うよ。」


「ほうほう...きちんときれいな水で手を洗い、魚は新鮮なものを。特に魚は釣りたてではないときは、氷水を入れると腐りにくくなる。しかも捌き方も丁寧に絵を用いて書いてある!さすがシュウヤ殿!色々な所に気を使っていらっしゃる!」


「いやいや、これが基本的な管理と調理の方法だから。」


 僕は少し自慢気に言った。僕の居た国の料理が異世界でも評価を受けてよかった。生魚を使うからどうなのかと思っていたけど、みんな意外と飲み込みが早い。


「この『パフェ』というのも作ってみたいです。」


「わかった。じゃあ...」



 僕はその後も色々な日本の代表的な料理とかを教えてあげた。どれもとても興味深く見てくれた。次は何を教えてあげよう。そんな事を考えていた...もちろん次からお代をもらうつもりだ。いつまでもダダでは流石に国の借金返済がいつまでも解決しないからな。


「シュウヤ様!少し相談があるんですけど...」


「おおリサ!なにかあったのか?」


「はい!この国の王、つまりあなたに会いたいという商人が居るんですよ!」


「おお!いいじゃん!通して良いよ。」


 この国では初めての他国の商人だ。何を売ってくれるのか、少し楽しみだ。


「こんにちは、あなたがこの国の王ですね?お会いできて光栄です。私は『ビーツ』と言います。あなたの国にこの世界の農業を教えに来ました。」


「こんにちは、僕はシュウヤって言います。この国に農業を広めてくださるのはとても嬉しいことです。では、よろしくおねがいします。」


 僕は初めてこの世界の人間にものを教えてもらった。そういえば僕はこの世界では教えてばっかりだった。だから、とても新鮮な気分だ。


 どうやらこの世界にも日本のような野菜があるらしい。トマト、人参、玉ねぎなど。これらを栽培できれば、料理を地産地消でつくることができ、それが多くの国の利益につながるだろう。


「ビーツさん、ありがとうございます。あと私はこれも作ってみたいです。」


 僕はピーマンのような野菜を指差した。それを見たら相手は少し困っていた。


「あの...その野菜は苦いことで有名なんですよ。熱を通しても少し苦いことから、他の人からは避けられている売れない野菜なんですよ。」


 話を聞いていると、どうやらこの世界のほとんどでは野菜をそのまま食べるか単純に焼くことしかしないため、苦い野菜は嫌われているらしい。それならこの世界にとって良い料理がある。


「試しにその野菜をくれませんか?調理方法さえみんな知っていれば美味しく食べれると思うのですが、どうですか?公共調理場まで一緒についていってくれませんか?」


「その野菜なら不人気だからただであげてもいいが...どういう調理法でつくるのかには興味がある。うむ、ついていくことにしよう。」


 僕は野菜商人のビーツと一緒に公共調理場に行った。いわばBBQ場のようなものだ。そこで僕は豚ひき肉を持ってきた。


「ひき肉...ですか。それをどうするんですか?」


「まあ、見ていてくださいよ。」


 僕はあの日、お母さんの手伝いで作ったようにピーマンの真ん中の白いところを丁寧に取り除き、そこにスパイスを軽くまぶしたひき肉を詰め込んだ。そして油を引いたフライパンで焼いた。


「さあ、出来ましたよ!」


「うむ...」


 ビーツは恐る恐る食べているが、口に入れた瞬間に笑顔になった。どうやら気に入ったらしい。


「なんで今までこの組み合わせを作ったものが居なかったのだ!シンプルな作りなのに、本当に美味しい。また苦味もいいアクセントになっている!これはすごい!」


 そう言ってもらえるなら、僕だって作ったかいがあった。


「なあ、シュウヤさん。これを『食の商人』として有名な人に紹介しておく。うまく行けば各国で売り出せるぞ。これは!」


「それは良いが、ちゃんと売上の3割は我が国にいただきたい。あなたもそれでこの緑色の野菜が売れ、どちらにとっても利益になるだろう?」


「もちろんです!きちんと売上の3割、いや5割は君の国に渡すと約束しよう!そのように話をつけておく。」


「ありがとう!じゃあこれからも良好な関係が結べるように、よろしく!」


 僕とビーツは熱い握手を交わした。今日は良い商談が出来た。うまく行けば大きな利益になりそうな予感...!でもそう言えば食べ物しか今まで外の人に紹介してこなかったなぁ。まあ良いか!日本は食べ物が美味しいし、別に「食べ物の国」と言われても悪いことはないからな。


「そういえば、この野菜の名前はどうしましょう?不人気すぎて、名前すらついていないんですよ...」


 僕はとっさに


「『ピーマン』という名前でいかがでしょう?」


「おお、それは何かしっくり来ますね!わかりました。『ピーマン』と名をつけて、食の商人とやり取りをしてみます!」



 数日後、向こうから一人歩いてきた。どうやら「食の商人」のようだ。いろんな国を巡り歩いてきたからか、服に色々な装飾が施されている。


「やあ、君がシュウヤか?」


「はい!私がこのサンジーフ王国の王である、シュウヤと言います!」


「うむ、私は『食の商人』と言われている『カム』という。それで、あの苦い野菜を有効活用した料理があると聞いたが?」


「はい!こちらです!できたてですよ!」


 僕はあの話の後、リサが料理が得意ということを知ったのだ。だから今日はリサに作らせることにした...


「シュウヤ様!今日は何をされていたんですか?」


「あ、君にはさっき住民登録申請作業で忙しそうだったから言ってないけど、さっき野菜商人の『ビーツ』が来たんだ。そしてこの緑色の野菜を料理してやったら喜んでたよ。『食の商人』にも紹介してくれるって」


「え!?この緑色の野菜をあの方が!?これは苦くてとてもじゃないけど私は食べれませんよ!」


「ビーツのこと知ってたんだ...まあ、これ食べてみてよ。」


「...!美味しい!いい感じの苦味になっているわ!これって作り方教えてもらったり出来る?」


「いいよ!これはね...」


 というわけだ。とにかくリサは料理がうまいのだ。さっき試食してみたが、なんら遜色はなかった。というわけで、今に至る。


「ほほう、この苦い野菜を使うのは興味深いですね......ん!?これは食べたことがない味だ!なるほど、ピーマンの苦味を利用しているのだな...」


「喜んでもらって良かったです。」


 「食の商人」であるカムからお墨付きをもらったのだ。僕も料理に少し自信がついた。日本の真似事でもあるが、それでもこの世界では俺の料理だ。


「ビーツから話は聞いている。早速色々な国で販売してみよう。もちろん調理師はこちらが雇う。それと、利益の5割はそのまま差し上げよう。もちろん君の国の名前も宣伝に入れておくよ。」


「ありがとう!カム!」


 僕はビーツとカムに出会って、僕自身も料理の腕をもっとあげないとと思った。僕は料理が好きだ。将来の夢とまでは行かなかったが、家庭科では良く見本にされたりしたし、コンクールでも金賞を持っているほど。僕の性格のおかげで、色々な料理に興味を向けることが出来た。それがこんなところで、まさかその人生が終わった後に役に立つとは思わなかった。けど「終わりよければ全てよし」って言うし、とりあえずは良かった。


「この世界の料理の道を開拓していくのも良いな。しばらくは料理で稼いでみようかな。」


 しばらくの目標が出来た。そして、借金の完全返済日まであと10ヶ月。残りの返済する借金は29億2970万Gくらいかな?まだまだこれからだ。



 ここは国の監視塔の上。明け方だった。警備担当のヒカルと雇った警備員たちが不審そうに国の向こうを見つめた。


「なんだあの大群は?すごい勢いでこっちに来ている...」


「一応警戒しておいて!何かあれば私達がどうにかしよう。」



「もうあんな国にはいられるか!集団移住だ!もうどこでも良い!飯を食わせて泊めさせてもらおう!」


「あの国はもう崩壊寸前だからな...しかも我らのお腹も減っている...よし、あの国へ行こう!良いな!みんな!」


「「「オウ!」」」

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