第2話

海神の家の一室で供される食事をし、寝て、体を拭いてもらい、そんな生活を続けるうちに疲労は回復し、精神面も落ち着きを取り戻しつつあった。

出される食事は海産物ばかりではなく米や野菜、肉などもあり、近所の山神や稲荷などとよく物々交換をするのだという。


私は昼食を食べた後、「あの…」と海神に話しかけた。ようやく自分の事を話そうと思えるだけの気力ができたからだ。海神はそれを察した様に、黙って耳を傾けていた。


私の名は今女(イマジョ)という。ある寒村の小作農の家に産まれた。子沢山な家で、子供は労働力として扱われる。ろくに食えず、朝早くから晩遅くまでの重労働。よく分からない理由で暴力を受ける事は茶飯事だった。


そういう訳だから、奴隷として売られる事になってもとくに何も思わなかった。実際、勤め先では主人が別の人間になっただけで、私の生活は何ら変わりが無かったのだ。


資産は無く、コネも身寄りも無い。産まれて物心ついた頃から奴隷だったため、奴隷としての生き方しか知らない。ここから逃げ出したとて、どうやって生きれば良いのか分からなかった。また、日々蓄積される疲労が、窮地を脱するに要するエネルギーを奪っていた。


そんなある日、転機が訪れる。勤め先の主人が私を見初めたのだ。

悪い話ではない、と思った。ちょっとした金持ちの主人の妾になれば、奴隷の境遇から抜け出す事ができる。そして私はその主人の妾として囲われる様になったのだ。


しかし主人の正妻と彼女の息子はそれを知り、正妻の許可も得ずそれも奴隷のような者を勝手に妾にし、正妻と嫡男の面目を潰した事でいたく怒った。


正妻と嫡男は使用人らに命じ、私に暴力を振るわせた後、十字に作った木に私を縛り付け満ち潮によって海に沈むよう、砂浜で磔にした。


全て聞き終えると、海神は眉をしかめ


「酷い目に遭ったのねぇ…」


しみじみと、そう言った。



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