第三話 すべてが整った
そこにいたのは、人形のような美少女だった。
シミ一つなくあまりの綺麗さに見とれてしまいそうな白色の肌、翠色の整った眉毛。くっきりした目鼻立ちに淡いピンク色の唇。まだ目をつぶっていて顔しか見えていないが、これだけの情報だけでもこの子は間違いなくモテる側の人だと容易に想像ついた。
(可愛い………)
ふと声に出してしまいそうになり、慌てて口を塞ぐ。一度冷静になろうと目線を動かしたその先には、僕以上に動揺している渚鳥の姿だった。どうやら同じように感じたのは僕だけではないらしい。向かい側にいた渚鳥はあわわと声を上げ、
「可愛いー!」
と大きな声を出した。
僕の気持ちを代弁してくれたと思った………のだが。
「何このお人形さんがそのまま大きくなりましたー、みたいな綺麗な顔は!? どうやったらこんな綺麗になれるの!? 食事?美容エステ? これじゃあ毎日パックしてる私と比べ物にならないじゃない!」
「っと、はいはいそこまで。いったん冷静になろう。あと、渚鳥も綺麗な方だと思うよ。多分」
「あ、あり、がとう………」
このままいくと一人でどんどん機嫌が悪くなりそうなので、フォローしつつ止めた。しかし、今度はなぜか上機嫌になった。………やっぱりこいつに関してはよくわからん。
「ふぅーっ、よし、落ち着いた。っで、ここからどうしよう?」
「まさか、こんな美少女が出てくるなんて思わなかったなぁ」
「さっき触ってみた感じ冷たくはなかったからまだ生きてる………? のかな?」
「いや、生きててもらわないと困る」
「だね」
それから二人で話し合い、体中に巻かれているものを剥すことから取り掛かることにした。すべて剥ぎ取るのに半日かかってしまったが、時間を気にしている暇なんてなかった。だって、ペールを剥すごとにどんどん美少女の全貌がわかってくるのだから。
「まって、スタイルもいいんだけどこの子」
「僕には良し悪しがわからん。まあ渚鳥がいいって言うならいいんだろうけど」
(なんかこの状況、エロくないか?)
率直に言う。自分は今かなり興奮している。表向きは何とか平然を保てていると思うが脳内はパニック状態だった。
仕方がないことだ。突然男性にはない大きな起伏が現れたのだから。加えて無防備な状態なこともあって、もし目の前に渚鳥がいなかったら自分は何をしていたのだろうと考えてしまう。おっと、これ以上はだめだ。
(ああ、世界中の男子諸君よ。自我を保てている僕を褒め称えてくれ!)
なんてことを考えていると、渚鳥は舐め回すように横たわった女性を見たのち、何かを見つけたように僕を招いた。
「ねね、なんかボタン? みたいなものがあるんだけど」
「ボタン?」
この場面では聞くはずがなかった単語が突然出てきて僕は動揺する。
「ほら、この胸元」
そこにあったのは、アナログ式ではなく、電子式のボタンだった。よくアニメに出てくる立体的に映し出される光のようなものだ。そこに物質はないがまるであるように見える、あまり現実的ではないボタン。なぜか僕はそこでワクワクするような感情が芽生えた。
「すごいなこれ、どうなってるんだろう」
「私もよくわかんない。………やーくん、試しに押してみてよ」
「これって押せるものなのか………? ほい」
ボタンはあくまでもボタンなので、圧力をかければ反応するはずだ。僕は半信半疑の状態で言われるがままボタンを押す。すると、さっきまであったボタンが消え、何やらピコピコと音が出始めた。
「ねえ、これどうなっちゃうの?」
「僕にもさっぱりだ。っていうかこの子、ひょっとするとロボット?」
「私も思ったそれ! さっきから様子が変だったもん! なんか『〇〇完了』とか『ダウンロード完了まであと〇〇分』とか聞こえたもん」
「それもっと早く言ってくんね?」
さらっと重要なことを言った渚鳥。だが、それで確信が付いた。彼女は紛れもなくロボットだ。しかし、なぜこんな美少女ロボットが僕の家に届いたのだろう。厳重な包装までして。
あと、ついでに言わせてもらうとなんで美少女ロボットなんだ? ロボットって言ったらペッ〇ー君みたいなやつ想像するし、かっこいい路線でガン〇ムみたいなやつとかでもよかったんじゃないか? 自分が男子なだけに、反応に困っちゃうよ)
(嫌とは言っていない)
ボタンを押して数分後、ついにロボットが動きを見せた。なんと目が開いたのだ。目を開くと彼女の可愛さがより引き立つ。一般の人間とは違うことを証明するかのようなピンク色の瞳孔。しかし、皮肉なことに彼女の容姿に完全にマッチしていた。おそらく製作者がこだわったポイントなのだろう。目が開いたことでついに彼女は完成したのだ。
ネオ・ラブ二ティー Molkey @bokkurimatu
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