第二話 ミイラを剥ぐ

 我が家に戻ってきた。


 そしてその家の中にはミイラ(?)がいる。


 本当はまだ戻りたくなかったが、今回は少し状況が変わった。心強い味方が一人できたのだ。


「さあ、行きましょうか」


 渚鳥はそういうと、持ってきたスペアキーを使って難なく僕の家の鍵を開ける。


 このとき内心、自分が情けないと思っていた。人に迷惑をかけないという条件で親との交渉をしたのち、やっとの思いで始められた一人暮らしだったが、結果として数少ない僕の大切な友人を巻き込んでしまっている。


 後で改めて感謝と謝罪の気持ちを伝えようと心に決め、渚鳥の後を追う。


 玄関のドアを開け、リビングへ向かうと例のミイラはそのままの形でそこにあった。


「こ、これだ。渚鳥。言ったとおりだろ」


「んー、確かにミイラだね、これ」


「なんでそんなに冷静なんだ」


「私もよくわかんない。ねえ、とりあえずこの巻かれてる包帯はがてあげようよ」


「お、お前、本気で言ってるのか?」


「うん。………なんか、この子? で合ってるのかな? かわいそうに思えてきて」


 ミイラにまで同情する渚鳥に驚きつつ、確かになと思う節がないといえば噓になる。


 見た当初は一人だったため恐怖心のみだったが、今は渚鳥がいるお陰で冷静にミイラを見ることができている。言われてみれば確かに苦しそうだ。たとえ人間じゃなかったとしても無造作に包帯が巻かれたままだとかわいそうだ。


 包帯をはがすことが決まったところで渚鳥が気になる発言をした。


「これ、人間じゃないよ」


「え?」


「だって人間なら普通腐敗臭がするでしょ。有機物なんだから腐るに決まってる。でも見た目や匂いを確かめた感じ、そんな感じはしなかった。ということは………」


 そういいながら渚鳥はミイラの頭部分の包帯に手を当てる。そして何やら確認するような仕草をした後、一枚、二枚と包帯をはがし始めた。


 見ているだけではよくないので僕も慌てて手を動かす。もし人間じゃなかったとして、余計にこのミイラの正体がわからなくなってきた。本音はもう少し心の準備が欲しかったところだが渚鳥がやる気なのでそれに乗ることにした。


「お、少しずつ見えてきたよー」


「おお」


「………ん?」


 渚鳥の手が止まった。


 何か様子が変だ。


 さっきまであんなに楽観的だった渚鳥が、まるで時を止めたように停止している。


「どうしたんだ渚鳥」


「ねえ、これ」


「だから、何かあったのか?」


「ね、ねえ、これ、見て」


 渚鳥は声を震わせながらミイラの頭部あたりを指す。


「何かそこにあるのか」


「いいから、見て」


 まだ声を震わせながらも真剣な眼差しが渚鳥の本気度を表していた。


 やはり人間なのか? それとももっとやばいやつなのか?


 恐る恐る渚鳥のそばに近づいていく。


 目線を渚鳥からゆっくりと渚鳥のさすミイラの頭部に移す。


 そこには——————————————————————


  ———————人間にとてもよく似た、美少女ロボットが眠っていた。





 

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