第一話 作戦会議
家を飛び出してから数分後、僕はとあるレストランに来ていた。
この辺りは僕が住んでいる町の中でも特に栄えている場所だ。ここまで猛ダッシュをしていたため息を切らしながらも周りを見渡すと、これから仕事へ向かうサラリーマンや子供を保育園に預けようとする主婦が足を止めることなく各々の目的地まで歩いている。
僕も何も考えずにここまで来たわけじゃない。
とある人物へ助けを求めにやって来たのだ。
僕は息を整え、大きく深呼吸する。
「すいませーん、小夏さんいますか?」
声をかけるがレストランには明かりがなく、応答はない。
仕方がないので表から入ることは諦め、お店をぐるっと一周して裏口から入ることにした。
店内の様子を見ると、オープンに向けての準備中をしていた。まあ、そりゃそうだろう。まだ朝の8時だ。
少し時間帯が悪かったと思いながらも、先ほど恐ろしい目にあったので家には戻ることができない。ていうか戻りたくない。
危うく本来の目的が忘れそうになった僕は遠慮なく裏口のドアを開く。
するとそこには探していた女性がエプロンを着けて立っていた。
「あれ? やーくんだよね? どうしたの、こんな時間に」
「いや………、ちょっといろいろあってな」
この女性は小夏 渚鳥(こなつ なとり)。同じ年であり、このレストランを実家とする、僕の数少ない友人だ。幼稚園、小学校、中学校といつも一緒の環境で過ごしてきたいわゆる幼馴染というやつで、同年代の子と比べるとやや小さめの身長、メリハリのある体つきに生まれつき整った顔立ち、ボブカットにしては少し長めな藍色の髪、ワンポイントとして前髪にはいつも虹色に輝く貝殻のブローチをつけている。
「そっか。まだお店始まってないし、とりあえず入って入って」
「悪いな、準備の邪魔をしちゃって」
「いいの。困ったらお互い様でしょ。ほら、早く」
こういうやりとりをするとなんか落ち着くんだよなと考えながら、お言葉に甘えて靴を抜いて店内に入る。
作業がひと段落したらいくから先に部屋にいっててと伝え、渚鳥は元居た調理場に戻っていく。
部屋というのは二階にある渚鳥の部屋のことだ。何回も訪れているため店の構造は熟知しており、一人で部屋に上がることに対して抵抗はすっかり無くなっている。
部屋に入って数分後、私服に着替えた渚鳥が部屋に入ってきた。
「おまたせー。で、どしたん? こんな朝早くから。私が恋しくなったかな?」
「べ、別に、そういう訳じゃないし。ただ………」
それから、今朝あった出来事をすべて渚鳥に話した。最初は信じてくれないかと心配になったが長い付き合いもあってか、そこは信用してくれた。
一通り話した後、渚鳥からある指摘をもらった。
「わかった。そのミイラって話は信用する。………だけどさ、その中身って実際見たの? 本当に人間が入ってたの?」
「いや、人型だっただけで人間と確信した訳じゃない。それに、当時はパニックで中を確認する余裕なんてなかったんだよ」
あの状態で冷静になれる訳がなかった。それは確かだ。ただ、渚鳥の言う通り、少し早とちりが過ぎたのかもしれない。もう少し落ち着いていたら逃げ出すようなことはなかっただろう」
「それで、鍵も閉めずスマホも置きっぱで飛び出したって訳ねえ。………てか、やーくん家ってオートロックじゃなかったっけ? 鍵ないじゃん。どうするの?」
「スマホもないし、母さんにも連絡が取れないから代わりに開けてもらえないか………。うーん、どうしよう………」
指摘されないと気付かなかった問題にぶち当たり、困っていると渚鳥は待ってましたと言わんばかりに胸を張って自信満々に言う。
「そんなときの渚鳥ちゃんじゃないですか。ほら、私に助けてくださいは?」
「た、助けてください………」
「声が小さい! もっと大きく!」
「助けてください! 渚鳥様!」
「よろしい! この私が貴様を助けてやろう!」
そういうと渚鳥は立ち上がり、近くにあったキーケースを取り出した。
「さあ、ここには何が入っているでしょうか!」
「まさか………」
「そう、そのまさかです!」
なぜか誇らしげに渚鳥はキーケースを開けると、そこには僕の家のスペアキーがあった。
——いや、なんでもってるん?
「これはね、万が一を思って、やーくんのお母さんから預かってたの。
——あ、安心してよね!? この鍵を使って勝手に侵入してたりとかはないから!」
「そ、そうか」
僕って渚鳥より信頼されてなかったんだなと思い少し悲しくなった。まあ、これで家には戻れることが分かった。しかし、根本的な問題解決には至っていない。
「でも、渚鳥。情けないんだが今は一人であの家に帰れそうにない。知ってるだろ。僕が大のホラー嫌いってことを」
「私もついていくから安心して」
「それは申し訳ないよ。今日も店の手伝いがあるだろ」
「いいのいいの。私真面目ちゃんだから一日ぐらいサボったって平気。それに、さっきからそのミイラってやつ、気になってしょうがないのよね。だからこれは私の意志で決めたことなの。いいでしょ?」
「まあ、そういうことなら………」
「じゃあ、さっそく行きましょうか!」
渚鳥はそういうとスペアキーだけを持ったまま、一人で部屋を飛び出してしまった。その様子を見た僕も慌ててその後ろをついていき、渚鳥の部屋を後にするのだった。
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