一章 出会い

序章1 僕はミイラ取りではない



 ピンポーン。



「樹神さん、お届け物でーす」



 すべてはこのインターホンの音とありきたりの定型文から始まった。

 とある日曜日の早朝。閑散としたリビング、キッチン、そして僕が寝ていた個室にまでインターホンが鳴り響く。

 

 思いもよらない起こされ方にいら立ちを覚え、このまま無視してやろうかという考えがよぎるも、配達員に悪いと思い仕方なくベットから起き上がった。

 

 そばにあるスマートホンに目をやると、時刻は7時21分を回っていた。


 ——それにしても配達か。同年代の人たちと比べるとネットショッピングを利用することは多い方だが、ここ最近に何か注文した覚えはない。ましてや、配達時間をこんな早朝に設定したことが今まで一度もない。


 日曜日の朝は僕にとって唯一自由な時間といっても過言ではないのだ。そのため、万が一なことがあったとしても、この時間帯に配達が来ることはあり得ないということだ。


 ピンポンピンポン。


 再びインターホンが鳴り響く。


 いろいろ考えてはいたが、何か僕宛てに届いているのは事実。今すぐにも取りに行かなくてはならない。しかし、昨日の重労働もあってか体が中々いうことを聞かない。


 二度目のインターホンが鳴っておよそ20秒後、ようやく起き上がることができた。寝起きのためか、立ち眩みがひどい。先ほどのインターホンの音が脳内で繰り返し再生され、目の焦点も定まらない。それでも何とか壁や物につかまりながら、目的地である玄関に向かった。


 玄関の重い扉をゆっくりと開けるとそこには誰もいなかった。トラックすらも止まっていなかった。どうやら僕がゆっくりしている間に配達員は行ってしまったらしい。


 扉を支えながら左の方に目を向けると、そこには僕の身長(確か170センチくらい)よりこぶし三つ分小さい、縦長の段ボールが置かれていた。


 ………いや、でかくないか、コレ。

 

 少しずつ体調が元に戻ったところでとりあえずこの謎の荷物を家に入れることにした。この荷物の宛先はやはりというべきか見覚えがなく、本当に安全な物なのかは確かではないが、こんな大きなものを外に置きっぱなしにしておく方が怖いと判断したためだ。


 荷物が通れるように玄関を整理し、段ボールを持ち上げようとする。持ち上げようとする。上げようとする。

 

 ………持ち上がらない。


 朝早くからこんな重労働をされられるとは思ってもみなかったが、見れば見るほどこの荷物(推定30キロ)の中に何が入っているのか、好奇心がむくむくと湧き上がってきた。


 半端な力ではびくともしなかったので、少し引きずりながらも気合を入れて何とか広いリビングにまで運ぶことができた。そしてそのころにはこの荷物のことで頭がいっぱいになっていた。


 近くにカッターらしきものはなかったので、力ずくで段ボールを開封する。すると中に入っていたのは………



——テープでミイラのようにぐるぐる巻きにされた人そのものだった。



 これを見た僕は流石に驚いて尻もちをつき、後ずさりをしてしまった。こんなもの、一種のホラー映画のワンシーンだ。ホラーが大の苦手な僕は、スマートホンや鍵を家に置いて行ったまま、家を飛び出したのであった。

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