ネオ・ラブ二ティー
Molkey
アイとAI
遡ること約半年。
ワタシが目を開けるとそこにはどこまでも続く白い空間があった。
あまりにも殺風景な空間の中でただ一人。普通の人はあまりにも突然な出来事でパニックになるだろう。そして、ワタシも例外ではなかった——はずだった。
「おお、目覚めたか」
「博士、これは成功ですか!」
この施設の関係者らしき人物が二人、ワタシの目の前に現れた。一人は無精ひげを生やした青年。博士と呼ばれていた人物だ。もう一人はというと、声や髪の長さから女性であることは分かったが、仮面のようなものをかぶっていて最後まで素顔を見ることができなかった。
「すみません、ここはどこですか」
「ここは俺の研究所だ。大丈夫、安心してくれ。ここはとっても安全だ。なんだって俺が苦労して見つけた誰にも知られていない秘密の研究所だからな」
「そう、ですか………」
いつの間にかワタシの知らないところへ迷い込んでまっていたらしい。話を聞く限り、この二人はこの場所について詳しいと見た。もしかしたらワタシを助けてくれるかもしれないと思い、話をもう一歩先へ踏みこむことにした。
「あの、ワタシ、いつからここにいたかわかりますか?」
「そうだな………、半年くらい前になるか?」
「半年、ですか」
「そう、半年」
ワタシは何のためにここへ来て、なぜ半年間もいたのだろう。ますます疑問が深まる。
「よし、状態も回復してきたところだし、今度はこっちから話をしよう、№826。うーんそうだな………まず、自分の名前はわかるか?」
自分の名前? なんでそんな質問をするのだろう?
誰もが思う率直な疑問が浮かぶ。そんなの、歩くことがままならない赤ちゃんにだってわかるだろう。ワタシはこの博士という人物にバカにされているような気がした。
しかし、今は不思議とイラっとはしなかった。
それもそのはずだ。だって自分の名前がわからなくなっているからだ。
(№826ってだれ? ワタシのこと? そんな番号だったっけ?)
———————私の名前は、何?———————
「やはりか」
博士はそういうと私に背を向けてふうと軽くため息をついた。
「君はこの空白と呼べる半年間によってさまざまなものを失っている。今現れている一つの症状は記憶喪失だ」
「それって治せるのでしょうか」
ワタシはそういうと、今度はわかりやすい大きなため息をついた。
「俺は医者じゃないんだ。わかるはずがない」
「博士」
「なんだ、№721」
「№826のデータが取れました。こっちに来てください」
仮面をかぶった少女の名は№721というらしい。彼女に呼ばれた博士は早歩きで向かっていく。
「データによると、№826の今までの記憶はほとんど無くなっているようです。詳しく説明すると、特に自分を含む人間関係の記憶の喪失割合は99%と極端に高くなっています。それに反して、規則基本の知識の喪失や語彙力の低下はあまりないようです」
「ふむ………、この違いについても要研究が必要だな。丁寧にありがとう」
「私は博士の助手です。これくらいのことは当然です」
№721は静かに博士に対して頭を下げ、博士の後ろについた。
「………っということだ№826。少し疑問は晴れたか?」
「はい………」
そうか、だから思い出せないんだ。母親の顔も、父親の顔も、今となるといるのかすらわからない友人の顔も。ここで初めて、自分が寂しくなっていることを感じた。
「………!?」
「どうした№721!」
「博士、少しお待ちください」
彼女はそういうとポケットからスマホのようなものを取り出し、深刻な顔でその画面を見つめる。
「こ、これは………」
「おい、まさか、また失敗したのか」
さっきから何を言っているのかさっぱりだ。研究? 失敗? あまりワタシをのけ者にしないで欲しい。ワタシは博士の手を取り、不思議と思っていたことを口にしていた。
「失敗って何ですか。何か研究してたんですか?」
「黙れ!!!」
「………っ!」
大きな罵声を挙げ、ワタシの手を振りほどく。そして、いままで見せたことがなかった博士の憤怒の表情を見たワタシはおどろか………なかった。………なんだこれ。どうしちゃったんだ、ワタシ。
「ちっ、やはりそうか」
「博士、ワタシから彼女に説明しましょうか?」
「ちっ、そうしてくれ」
そうして博士はしばらく一人にしてくれと言い残しこの場を去った。残った№721は冷たい眼光を私に向け、口を開いた。
「あなた、感情、無くなっているわよ」
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