9.新たな伝説の誕生。








 ――某掲示板では、大きな騒ぎになっていた。

 何故なら、アークデイモンが集合体として巨大化するなんて前代未聞だったから。どこのサイトを見ても、いったいどのようなモンスターなのかが分からなかった。

 だからこそ、誰もが思ったのだ。



「(終わった……)」――と。



 しかし、この状況でも諦めない男はいるのだった。







「う、わー……でけぇー……」



 俺は合体したアークデイモンを見上げて、あまりに当たり前な感想を口にする。ここまできてしまったらもう、それくらいしか語彙がなかった。というか、感心してしまう。


 ダンジョン配信者というのは、日夜こんなのを相手にしているか――と。


 人気な職業とはいえ、さすがに命を張り過ぎだろう。

 そう思ったが、すぐに笑いが込み上げてきた。



「それは、他人様のこと言えねぇか……!」



 考えてみれば俺も、同じ穴の狢というやつだろう。

 酔狂にもダンジョンに突入し、その生き様を全世界に配信しているのだから。しかしそれは今までの鬱屈とした生き方とは違って、命の実感に満ちていた。

 自分はここに生きているのだ、と。

 そう思い、感じて、さらに追い求めたいと考えるようになった。だから――。



「……あっと、着信か」



 そこでまた、涼子から着信が入る。

 応答をタップしてから耳に当てるとすぐに、彼女の悲鳴が聞こえてきた。



『たっちゃん、今すぐ逃げて!』――と。



 それはご尤もな意見であるように思う。

 たぶん俺も、この場にいなければそう忠告していた。

 だけど、駄目なのだ。このような気分の高まりは、一度でも経験してしまうと後戻りはできない。だから俺は涼子に対して、こう告げることにした。



「大丈夫だって、すぐに帰るからさ」



 そして、通話を切る。

 嘘は言ってない。何故なら――。



「……こいつを倒してから、な」



 勝負は一瞬で、決まるのだから。

 俺はしっかりと腰を落として、ミラーシールドを構えた。


 そして、叫ぶ。




「こいや、バケモンがあああああああああああああ!!」




 その直後に、巨大化したアークデイモンは魔法を放った。

 先ほどまでのそれとは、桁違いの威力。



 俺はそれを逃げずに、受け止めて――。





「うらあああああああああああああああああああああああああああ!?」






 喉が裂けんばかりに。

 肺がはち切れんばかりに。



 咆哮し、絶叫し、全身全霊の力で押し返したのだった。

 そうして――。










 ――その日、新たな伝説が誕生した。




『マジかよ……』

『……ははは、どっちがバケモンだよ』




 横倒しになりながらも、しっかりと映し出された配信。

 それを見たリスナー全員が、その証人だった。



 達治が弾き返した巨大な光弾は、モンスターに吸い込まれる。

 そして、轟音と共にそれを呑み込んだのだ。

 誰もがあり得ないと、そう呟く。



 そんな光景を目の当たりにし、ある者がこうコメントを残すのだった。





『あんたは最強だよ、たっちゃん……』――と。





 そうして、一つの戦いが終わる。

 涼子を含めた視聴者全員が、安堵した瞬間でもあった……。



 



――――

この章はここまで!

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