9.新たな伝説の誕生。
――某掲示板では、大きな騒ぎになっていた。
何故なら、アークデイモンが集合体として巨大化するなんて前代未聞だったから。どこのサイトを見ても、いったいどのようなモンスターなのかが分からなかった。
だからこそ、誰もが思ったのだ。
「(終わった……)」――と。
しかし、この状況でも諦めない男はいるのだった。
◆
「う、わー……でけぇー……」
俺は合体したアークデイモンを見上げて、あまりに当たり前な感想を口にする。ここまできてしまったらもう、それくらいしか語彙がなかった。というか、感心してしまう。
ダンジョン配信者というのは、日夜こんなのを相手にしているか――と。
人気な職業とはいえ、さすがに命を張り過ぎだろう。
そう思ったが、すぐに笑いが込み上げてきた。
「それは、他人様のこと言えねぇか……!」
考えてみれば俺も、同じ穴の狢というやつだろう。
酔狂にもダンジョンに突入し、その生き様を全世界に配信しているのだから。しかしそれは今までの鬱屈とした生き方とは違って、命の実感に満ちていた。
自分はここに生きているのだ、と。
そう思い、感じて、さらに追い求めたいと考えるようになった。だから――。
「……あっと、着信か」
そこでまた、涼子から着信が入る。
応答をタップしてから耳に当てるとすぐに、彼女の悲鳴が聞こえてきた。
『たっちゃん、今すぐ逃げて!』――と。
それはご尤もな意見であるように思う。
たぶん俺も、この場にいなければそう忠告していた。
だけど、駄目なのだ。このような気分の高まりは、一度でも経験してしまうと後戻りはできない。だから俺は涼子に対して、こう告げることにした。
「大丈夫だって、すぐに帰るからさ」
そして、通話を切る。
嘘は言ってない。何故なら――。
「……こいつを倒してから、な」
勝負は一瞬で、決まるのだから。
俺はしっかりと腰を落として、ミラーシールドを構えた。
そして、叫ぶ。
「こいや、バケモンがあああああああああああああ!!」
その直後に、巨大化したアークデイモンは魔法を放った。
先ほどまでのそれとは、桁違いの威力。
俺はそれを逃げずに、受け止めて――。
「うらあああああああああああああああああああああああああああ!?」
喉が裂けんばかりに。
肺がはち切れんばかりに。
咆哮し、絶叫し、全身全霊の力で押し返したのだった。
そうして――。
◆
――その日、新たな伝説が誕生した。
『マジかよ……』
『……ははは、どっちがバケモンだよ』
横倒しになりながらも、しっかりと映し出された配信。
それを見たリスナー全員が、その証人だった。
達治が弾き返した巨大な光弾は、モンスターに吸い込まれる。
そして、轟音と共にそれを呑み込んだのだ。
誰もがあり得ないと、そう呟く。
そんな光景を目の当たりにし、ある者がこうコメントを残すのだった。
『あんたは最強だよ、たっちゃん……』――と。
そうして、一つの戦いが終わる。
涼子を含めた視聴者全員が、安堵した瞬間でもあった……。
――――
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