8.打開策と、想定外と。
「くそ、これは参ったな……」
俺は周囲に出現したアークデイモン五体を相手に、舌を打った。
これは完全に自分の慢心が招いた結果だが、まさか複数体が一気に出現するなんて思わない。予想だにしない展開とは、こういうことかという感じだった。
しかし今はそれを考えている暇ではない。
アークデイモンの俗にいう『魔法』を回避しつつ、俺は必死に思考を巡らせた。
「物理攻撃は効果がない。そうなると、何かしら……って、何すればいいんだ?」
そこまでは分かる。
だけども、そこから先が思いつかなかった。
走り回っている限りは酸素を消費し続けるため、だんだんと考えもまとまらなくなる。焦っては駄目だ、と理解しているものの、どうにも状況の打開策が浮かばないために苛立った。
そうなると悪循環だ。
だが、安易に突撃するような悪手を打てば即死は免れない。
「落ち着け。落ち着くんだよ、達治……!」
いま、自分の手には何がある。
自分の手には、どのような武器がある。
そう考えながら駆け、岩陰に隠れて束の間の休息を挟んだ時だった。
俺の懐で、スマホが鳴ったのは。
◆
「ど、どうすれば良いの! これじゃ、たっちゃんが……!」
涼子は必死に考えるが、気持ちばかりが急いていた。
元々が知能派というわけでもないが、いまの彼女は発熱中。いつも以上に考えがまとまらず、唇を噛む展開に陥っていた。薄皮が裂けて、口内には鉄の味が広がっていく。
だが、自分にも何かできるはずだ。
そう必死に考えていると、配信のコメントにヒントを見つける。
『フルムーン・アンナ:ミラーシールドォォォォォォォォォォ!!』――と。
それを見た瞬間に、彼女はハッとした。
たしか満月スポーツの店員が、達治の持つ盾の効果を話していたはず。
そして、それは――。
◆
とっさに着信に出ると、その相手は涼子だった。
そして彼女は、声を荒くして叫ぶ。
『ミラーシールドだよ、たっちゃん! それには【魔法反射】があるから!!』
それを耳にした瞬間に、俺は満月スポーツでの会話を思い出した。
あの店員は何を言っていたか。あまりにもキャラが濃くて、その内容をすっかり忘れていた。だけど従兄妹の言葉で、ハッキリと光明が見えたのだ。
「助かる!」
俺は短く答えて通話を切ると、呼吸を整えてから動き出す。
そして、あえてアークデイモンに姿を晒すのだった。
「ほら、こいよ! 得意の魔法を撃ってきやがれ!!」
果たして挑発に効果があるのか、それは定かではない。
しかし、俺の声に反応を示した一体がおもむろに手を翳した。
「(く……逃げるな、ビビるな……!)」
そのアークデイモンに対して、左腕にはめた盾を構える。
心臓が早鐘のようになり続けている。
それが、いつかの日を思い出させたが、いまは関係ない。
俺はしっかりと相手を見据えて、タイミングを計り続けた。そして――。
「うらあああああああああああああああああああああああ!!」
――魔法弾の射出に対して、盾を突き出す!
するとそれは、まるでバットで硬球を弾き返した時のような感触と音を残し、光弾放ったアークデイモンに吸い込まれていった。自身の魔法を喰らったモンスターは、断末魔の叫びを上げて消滅する。
「やった……!」
それを確認し、俺は一瞬の歓喜に口角を上げた。
だが、それもまた束の間のことだ。
「え、なんだよ。……アレ」
目の前でまた、信じられないことが発生した。
複数体のアークデイモンが集合し、そして一つに重なり始める。やがて彼らの影は大きさを増して、最後には――。
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
――さらに巨大な悪魔へと、変貌したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます