7.達治に訪れた危機。
「なるほど、アークデイモン……っていうのかー……」
俺はコメントを見てから、ボンヤリと考える。
ぶっちゃけ身体の大きさを考慮したら、先日倒したドラゴンよりも弱そうだった。だったら案外、コメント欄の心配は杞憂というやつ、なのかもしれない。
もっとも、そこに根拠というものはない。
だってモンスターの知識が壊滅的な自分では、分かりようがないのだ。
『逃げろって、たっちゃん!』
『怪我じゃすまないぞ!?』
リスナーのみんなは、文字でも伝わる剣幕でそう語る。
いやいや、そうはいっても大丈夫だろ。
この時の俺は、何故かそんな気持ちでいた。
そう、あの瞬間までは――。
「とりあえず、一撃入れてみてから考えよう」
だから、そう言いながらカメラを置いて鍬を構えた。
右手に武器を持ち、左手には先日購入した盾を装備するのだ。少々不格好ではあるが、前回よりいくらかは配信者っぽくなったと思う。
俺はそのことに充実感を抱きながら、アークデイモンに向かって走った。
そして力の限り、鍬を振り下ろす――!
「…………え……?」
だがその一撃は、まるで雲を切るようにすり抜けていった。
まったく手応えがない。いいや、それ以前にアークデイモンには実体というものがない、そう思わされた。鍬は確かにその巨躯を捉えたはずなのに、どうして……。
「……って、うわ!?」
だが、そんなことを考えている場合ではなかった。
虚ろな目をしていた悪魔は、こちらを敵として認識したらしい。瞳を血のような赤色に変えて、おもむろにこちらへ手を翳した。
なにか、くる……。
そんな直感を抱いて、俺は思い切り横方向へ身体を投げ出した。
すると――。
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
そんな悲鳴のような声を上げながら、アークデイモンは光の玉を射出する。
間一髪で回避したそれは、地面を抉りながら直進して壁へ。轟音と共に、衝突した箇所を大きく陥没させたのだった。
あれをマトモに喰らえば、命の危機だろう。
さすがの俺でも、そのことは瞬時に理解できた。だから、
「くそ、いったん逃げるか……!」
ここにきて、そう判断する。
そして、入ってきた通路に視線をやった時だった。
「うわ、マジか……」
思わず、そんな声が漏れたのは。
◆
「く、ん……? ふわぁ……っ!」
達治が危機に陥る一方で、涼子は浅い睡眠から一時的に目を覚ましていた。
大きく欠伸をして、ふと枕元にあるスマホを手に取る。
「たっちゃん、まだ配信してるかな……?」
そして、時間を確認した。
どうやら先ほどコメントした時から、小一時間経過したようだ。
そうだとすれば、達治の配信は終わっているだろう。そう思いはしたが、彼女は念のために彼のアカウントを見に行った。すると――。
「…………!?」
声もなく、悲鳴を上げた。
何故ならそこには、肩で息をする達治の姿。
「たっちゃん……!!」
そして彼を取り囲む、多数のアークデイモンがあったのだから……。
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