7.達治に訪れた危機。








「なるほど、アークデイモン……っていうのかー……」



 俺はコメントを見てから、ボンヤリと考える。

 ぶっちゃけ身体の大きさを考慮したら、先日倒したドラゴンよりも弱そうだった。だったら案外、コメント欄の心配は杞憂というやつ、なのかもしれない。

 もっとも、そこに根拠というものはない。

 だってモンスターの知識が壊滅的な自分では、分かりようがないのだ。



『逃げろって、たっちゃん!』

『怪我じゃすまないぞ!?』



 リスナーのみんなは、文字でも伝わる剣幕でそう語る。

 いやいや、そうはいっても大丈夫だろ。



 この時の俺は、何故かそんな気持ちでいた。

 そう、あの瞬間までは――。



「とりあえず、一撃入れてみてから考えよう」



 だから、そう言いながらカメラを置いて鍬を構えた。

 右手に武器を持ち、左手には先日購入した盾を装備するのだ。少々不格好ではあるが、前回よりいくらかは配信者っぽくなったと思う。

 俺はそのことに充実感を抱きながら、アークデイモンに向かって走った。

 そして力の限り、鍬を振り下ろす――!



「…………え……?」



 だがその一撃は、まるで雲を切るようにすり抜けていった。

 まったく手応えがない。いいや、それ以前にアークデイモンには実体というものがない、そう思わされた。鍬は確かにその巨躯を捉えたはずなのに、どうして……。



「……って、うわ!?」



 だが、そんなことを考えている場合ではなかった。

 虚ろな目をしていた悪魔は、こちらを敵として認識したらしい。瞳を血のような赤色に変えて、おもむろにこちらへ手を翳した。


 なにか、くる……。


 そんな直感を抱いて、俺は思い切り横方向へ身体を投げ出した。

 すると――。



【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】



 そんな悲鳴のような声を上げながら、アークデイモンは光の玉を射出する。

 間一髪で回避したそれは、地面を抉りながら直進して壁へ。轟音と共に、衝突した箇所を大きく陥没させたのだった。

 あれをマトモに喰らえば、命の危機だろう。

 さすがの俺でも、そのことは瞬時に理解できた。だから、



「くそ、いったん逃げるか……!」



 ここにきて、そう判断する。

 そして、入ってきた通路に視線をやった時だった。





「うわ、マジか……」




 思わず、そんな声が漏れたのは。









「く、ん……? ふわぁ……っ!」



 達治が危機に陥る一方で、涼子は浅い睡眠から一時的に目を覚ましていた。

 大きく欠伸をして、ふと枕元にあるスマホを手に取る。



「たっちゃん、まだ配信してるかな……?」



 そして、時間を確認した。

 どうやら先ほどコメントした時から、小一時間経過したようだ。

 そうだとすれば、達治の配信は終わっているだろう。そう思いはしたが、彼女は念のために彼のアカウントを見に行った。すると――。




「…………!?」




 声もなく、悲鳴を上げた。

 何故ならそこには、肩で息をする達治の姿。






「たっちゃん……!!」






 そして彼を取り囲む、多数のアークデイモンがあったのだから……。




 

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