3.新装備、入手。








 ――『満月スポーツ』は、地元のスポーツショップだ。

 俺も高校時代によく利用していた場所で、小さいながらも品揃えは充実している。野球のようなメジャーな競技から、聞いたことのないマイナーなものまで。

 なかなかにニッチな商品があることでも、スポーツ界隈では有名だった。



「……なんか、妙な視線を感じる」

「どうしたの? たっちゃん」

「いや、なんていうか……」



 もしかしたら、自意識過剰なのかもしれない。

 そう思ったりもしたが、やけに鋭い注意が向けられているように感じた。なにも不審なことはしていないし、普通に関節を守るサポーターを買いにきただけなのだが。

 俺は何度も周囲を見回していたが、それなりに入り組んだ店内で相手を見つけるのは難しかった。しばらくそんな攻防を繰り広げたけれど、最終的には諦めることにする。

 気味が悪いから、早々に退散したいのが本音だった。



「……あとは、携帯食料も買っておくか。テーピングも」

「そうだね。ダンジョンでは、何があるか分からないから!」

「ほほう……? ダンジョンと、仰いましたか?」

「え……?」

「……へ?」



 などと考え、そそくさと目的の商品をカゴに入れいていると。

 店員と思しき金髪の女性が、ニヤニヤしながら声をかけてきたのだった。驚いて俺と涼子、共々にその人物から距離を取る。すると店員は、途端に明るい口調で笑うのだった。



「いや、驚かせてすみません! 私、実はダンジョン配信が好きでして!!」

「は、はぁ……」



 そして、先ほどのこちらの会話を聞いていたような口ぶりをする。

 それはそれで気味が悪いが、視線ほどではない。俺はそう考えることにして、せっかくだからと意見を求めることにした。



「あの、だったら……ダンジョン配信者に必須なもの、ってあります?」



 すると店員は物凄く明るい笑顔で、俺たちを手招く。

 涼子と顔を見合わせ、首を傾げながらもついていくと、そこには――。




「う、うわ……!? なんだ、これ!!」

「これは私が独自に入荷して、勝手に作ったダンジョングッズの棚です!!」

「独断で!?」




 ――おおよそ、普通のスポーツショップでは取り扱わない品々が並んでいた。


 しかしこの女性店員、何者なのだろう。

 このようなスペースを作る権限があるなら店長クラスか、あるいは……。



「まぁ、細かいことは気にしないで」

「ずいぶんとフランクですね……」



 そんな思考をする暇すら、与えられなかった。

 俺は思わずツッコミを入れつつ、ひとまず棚の商品を見てみる。



「これは、結構大きなナイフだな。……銃刀法に引っかかりそう」

「それはダンジョン探索者用のナイフ、ですね。使用には政府への申請と許可証が必要になるのですが、そのあたりは大丈夫ですか?」

「あー……自分たち、初心者なもので」

「ほうほう! 初心者、ですか!!」

「え、えぇ……」



 ――圧が凄い。

 俺が苦笑しつつ応えると、相手はしばし考える素振りをしてから言った。



「それでしたら、まず……守りを固めることをおススメします」

「守り、ですか?」

「そうです」



 そして一度、店の奥に消えていくと。

 彼女は真新しい段ボールに入った何かを持ってきた。涼子と一緒に覗き込むと、そこにあったのは想像よりも遥かに本格的な――。



「――すげぇ、盾だ」

「凄いね! 本当に探索者みたいだよ!」

「ふっふっふ、こちらは最新鋭の技術を施したシールドとなっています」



 そう言うと、女性店員は梱包からそれを取り出して手渡してくる。

 受け取ってみると分かったのは、この盾は外見に似合わず物凄く軽い素材でできていること、だった。片手で軽々と振り回すことができ、機動性も十分に確保できる。

 俺が感心していると、店員はさらに自慢げに語った。



「軽いだけじゃないですよ? その盾には『魔法反射効果』というものが、付与されているのです。ちなみに、商品名は『ミラーシールド』ですね」

「……マジかよ」



 ダンジョンが世界中に発生して久しいが、技術はついに魔法へ対応したのか。

 俺は浦島太郎的な気分を味わいつつ、シールドをマジマジと見つめた。

 そうしていると、ふいに女性店員はこう提案してくる。



「そちら、私からお二人にプレゼントします! デビュー記念に!!」――と。



 それを聞いた俺たちは驚き、またも顔を見合わせた。



「いやいや、高価な商品だろ。いいのか……?」

「えぇ、大丈夫です! 店長には私から、適当に言っておきます!!」

「アンタ、普通の店員かよ!?」

「はっはっは! アルバイトです!!」

「正社員ですらなかった!?」



 なんだこの店員、滅茶苦茶にもほどがあるぞ。

 だがしかし、ここで申し出を断るとまた面倒なことになりそうだった。なので俺は口角を引きつらせつつ、素直に受け取ることとする。

 そうすると女性店員は何度も頷き、こう口にした。




「次回の配信、楽しみにしていますね!」――と。




 俺たちは他の商品の会計を済ませ、大急ぎで店を飛び出した。

 どうやら、涼子も考えていることは同じだったらしい。

 そう――。




「(あの店員は、色々とヤバい……!!)」――と。




 そんなこんなで、俺たちは新たな装備を手に入れたのだった……。


 

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