2.スポーツショップの不良店員。








「だーかーら! ウチは普通のスポーツショップなの! 天海さんさぁ、ダンジョンのない田舎でそんなグッズを取り扱って、需要あると思うの!?」

「す、すみません……! ただ、いつかここにもダンジョンできるかなって……」

「あったとしても、ここはスポーツショップだっての!!」

「は、はひぃ!!」




 市街地にある、小さなスポーツショップにて。

 お下げ髪の女性従業員――天海杏奈は、店長の男性からお叱りを受けていた。その理由というのも、ここがスポーツショップであるにもかかわらず、ダンジョン攻略用の道具を勝手に入荷したから。普通の会社ならタダでは済まないが、ここは田舎の小店舗であった。

 そのため杏奈は、平謝りでどうにか生き長らえている。

 反省しているかどうかは、置いておいて。



「……ったく! こんなダンジョンのない田舎で盾なんか入荷して、何の意味があるんだ。本当にこれだから、最近の若いダンジョン狂い、ってやつは……」

「………………」



 文句を言いながら、店長はバックヤードに下がっていった。

 どうやら、今回はこれで終了らしい。



「……ちらっ?」



 そのことを確認して、杏奈は――。




「ふひひ、今日は短くてラッキーだねぇ!」




 ――反省の色、ゼロ。

 どこか誇らしげな表情を浮かべた彼女は、大きく背伸びをしてから入荷したグッズを取り出す。そして現物に触れながら、口角を吊り上げるのだった。

 手元に置いてしまえば、こちらのもの。

 そう考えているのであろう彼女は、ケタケタと笑いながら言った。



「まったく、あの店長甘いわぁ~! 少ししょんぼりした顔すれば、それだけでパワハラ扱いを恐れて引き下がるんだもの」



 一言で表すと、杏奈の性根はかなり悪い。

 彼女の中での序列は自分を頂点として、その他大勢なのかもしれない。まさに仮面を被った唯我独尊、というやつだろうか。しかしそんな彼女にも、最近は変化があったらしい。



「『期待の新人』っていう二人組だけど、いったい何者なのかしら」



 職務中であるにもかかわらず、自身のノートパソコンを立ち上げる杏奈。

 どうやら彼女の興味は、ダンジョン配信界隈で話題沸騰の二人組にあるようだった。それというのも『鍬使いのドラゴンスレイヤー』という異名を与えられた新人だ。彼と撮影者であるパートナーの女性は、いまや一部で時の人となっている。

 杏奈はそんな彼の異次元な戦いに心惹かれたファンの一人であり、すでにドラゴン討伐のアーカイブは五十周していた。



「いやー……まさか私に、特定の推しができるとは思わなかったわ」



 今日も今日とて、その『ドラゴンスレイヤー』の情報を収集する杏奈。しかしながらあの日以降ずっと配信は行われておらず、詐欺動画だったのでは、という声も上がっていた。

 そう考えてみると、思い当たる節もいくつかある。

 例えば撮影者のリョウという女性は、コメントをガン無視していた。

 だがしかし、配信初心者であるなら目の前のことに集中してしまって、コメントを疎かにするなんていうのは普通に起こり得る事象だ。



「結局、真偽は不明のまま……ね」



 そんなこんなで、掲示板では暗中模索感が否めない状況となっている。

 それにこのような高難易度ダンジョンは、そうそう滅多にお目にかかれない。だというのに特定班が苦心している様を見るに、真実はまだまだ先にあるように思えた。

 杏奈は大欠伸を一つ、パソコンをスリープモードに。

 いまは考えても仕方ないので、とりあえず大切なグッズの手入れでもしよう。

 そう思って、彼女が立ち上がった時だった。



「ん、いらっしゃ――――ぶふっ!?」




 まさかの人物が、スポーツショップに来店したのは……。



 

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