第2章

1.配信休みに、ちょっとお出かけ。









「んー……この状態だと、さすがに配信しに行くのは無理かな」



 手のひらの火傷の跡を見ながら、俺はそう独り言を口にした。

 それほど重傷というわけでもないけれど、だからといって無理をする理由にもならない。だったら大事を取って休んでおいた方が無難だった。

 そう考えて、俺は数日振りに配信アカウントの確認を行う。

 すると、少し驚く結果が出ていた。



「え、登録者五百人……?」



 それというのも、これといって何もしていないのに登録者数が急増していたこと。以前確認した時、つまりは二日目の配信前には十人に満たない数だった。

 しかし、その日を境に登録者数は右肩上がり。

 いったい何が起きたのか、俺にはちっとも理由が分からなかった。



「なにか、特別なことしたっけ……?」



 俺は首を傾げる。

 自分たちがやったことといえば、他の配信者がやっているようなモンスター討伐だ。いきなりドラゴンが出てきたのには驚いたが、どこもそんなものではないのか。

 だとしたら、いったい何が視聴者の琴線に触れたのだろう。

 元々そこまで配信を見ていたわけでなく、配信自体もノリで始めた初心者である自分には見当もつかなかった。



「でも、見てもらえるのは嬉しいな。……単純に」



 これが配信業の喜び、というものだろうか。

 俺は経験のない高揚感に気分を良くし、次にやることを考えた。



「そういえば、配信休みだからこそできる何かをするか」



 そうなってくると、何があるだろう。

 しばし思案したけれども、初心者の俺には妙案が浮かばなかった。ここは一つ、涼子にも案を出してもらうのが一番いいかもしれない。

 そんなわけで、俺は痛む手でスマホを操作し彼女に電話をかけた。

 数回のコールの後に、従兄妹はいつもの調子で応える。



『はーい! たっちゃん、どうしたの?』

「もし時間があったら、次の配信について相談したいんだけど」

『あ、そうだね! たしかに何か考えないと、楽しくないもんね!』

「そんなわけだから、どこかで待ち合わせでもしないか?」

『分かったよー! せっかくだし、市街の方に行ってみる?』



 すると自然に、どこかで買い物をする約束になってしまった。

 話し合いだと言っているのに、どうしてそうなるのか。俺はそう思いもしたが、これも涼子らしいといえばらしいので、懐かしささえあった。

 なので苦笑いしつつ通話を切って、おもむろに立ち上がる。

 背筋を伸ばしつつ縁側に移動すると、外には気持ちの良い風が吹いていた。



「まぁ、今日は行楽日和、ってやつかもな」



 本日も平穏な晴天なり。

 ダンジョンのことばかりではなく、久々に地元を満喫するのもありだろう。




 そう考えて、俺は外出の準備を整えるのだった。



 

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