2.乾坤一擲、突き上げた灼熱の槍で貫く。
「うおおおおおおお!? やべぇ、マジで炎とか吐くんだな!?」
「頑張って、たっちゃん!!」
「おうよ!!」
ダンジョン配信者というのは、これほどまでに命懸けの職業なのか。
そのことを痛感しつつ、俺は鍬を構えた。ドラゴンはとにかく巨大であるが、動き自体はそこまで速くはない。これでも学生時代、野球部で鍛えたから体力には自信がある。
「うおおおおおお! 西高の韋駄天とは、俺のことだあああああああ!!」
部活で限界が近い時のテンションに似ていると、そう思った。
俺はドラゴンの攻撃をギリギリで回避しつつ、鍬でその堅い鱗を叩く。すると金属同士が弾き合ったような、固い感触と音が響き渡った。
どうやら、この武器でドラゴンの鱗を突破することは不可能らしい。
だったらどうするか……!
「……ん、あそこだけ鱗がない?」
そう考えていると、見えたのは柔らかな肌が露出している部分だった。
喉元に程近いそこまでは、ジャンプすればギリギリで届くかもしれない。それでも分厚そうな皮膚を一撃で突き破るには、何かが足りないと感じられた。
鍬だって耐久度に限界がある。
なにか、強烈な攻撃であの急所を一突きできれば――。
「たっちゃん、炎がくるよ!!」
「うわ、あぶねぇ!?」
思考を巡らせていると、いつの間にやらドラゴンの火炎攻撃の準備が整っていた。俺は完全に回避できずに、尻餅をつくような状態で転がる。すると手から鍬が抜け落ちて、地面の上に転がってしまった。しかし、それが思わぬ結果を生むのだ。
「え、これって……?」
鍬の先端部分に火炎が当たって、形状は維持したまま赤く変色している。
もしかすると、この鍬の状態なら――!
「リョウ……! いまから、クライマックスだぞ! ちゃんと撮れよ!?」
「う、うん……!!」
俺はそこまで考えて、一か八かの手に打って出る。
持ち手まで高温に熱せられた鍬を掴み、構えてドラゴンへ向かって駆けだす。そして緩慢な攻撃をどうにか回避して、肉薄し、今日一番の力を振り絞って跳躍した。
ドラゴンの喉に接近し、俺は灼熱の鍬を突き上げた――!!
【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?】
すると、ドラゴンの喉は見事に裂けて血を噴出させる。
のたうち回るそいつから離れ、身体を転がして受け身を取って見上げると、
「たっちゃん、やったぁ!!」
涼子の声と同時に、ドラゴンの姿は紫色の霧となって消えていくのだった。
それを確認して俺はしばし、立ち上がれずに自分の焼けただれた手のひらを見つめる。そして徐々に勝利の実感を得て、叫ぶのだった。
「よっしゃあああああああああああああああああああああっ!!」――と。
今までの人生の中でも、トップレベルの達成感。
それを体験して、俺は完全に配信中ということを忘れていた……。
◆
――そんな感じで、達治たちが狂喜乱舞している様子を見た視聴者の反応は。
『マジかよ……』
『これは、とんでもない配信者が現れたな』
『鍬でドラゴン討伐、って……どんな縛りプレイだよ』
『ていうか、ここはどこのダンジョンなんだ?』
誰もが達治の叫び声を聞きながら、驚きに目を丸くしていた。
そして、ある視聴者がこうコメントするのだ。
『いや、どこのダンジョンかは分からないけど。でも――』
文字からも、指先が震えているのが分かる。
そんな様子で……。
『少なくとも、めちゃくちゃ高難易度のダンジョンだぞ。……ここ』――と。
ダンジョンの上層部にもかかわらず、凶悪なドラゴンの登場。
それは、ここが並のダンジョンではない証拠だった。
しかし当然ながら、達治と涼子がそれを知る由などない。
そんな二人の話題は一気に広がり、ネット上でバズりまくるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます