第1章
1.リスナーの困惑をよそに。
――興奮でよく眠れないまま、翌日を迎えた。
俺は大欠伸をしながら実家の仕事を手伝い、昼になるとさっそく配信の準備を始める。涼子に連絡をして、昨夜見つけた得物を手にして、ダンジョンのある山林へ向かった。
こちらが到着して間もなく、涼子もやってくる。
「あれ、たっちゃん? それはどうしたの」
「昨日のことを反省してな。ちょっとばかり武器を準備してきた」
「なるほどー……!」
それを見て、従兄妹も納得したように頷いていた。
これで俺たちに死角はない。今回は撮影者を涼子に交代し、演者は俺がやることになった。その代わりに、彼女の存在を知らせるために実況は任せる感じで。
とにもかくにも、試行錯誤だ。
まだまだ始めたばかりだし、いまのところはダンジョンを楽しもう。
「それじゃ、早速いくぞ! ――配信開始!!」
こうして、このチャンネル二回目の配信が始まった。
◆
――開始数分後のコメント欄。
『お、始まった』
『初見だった者です』
『今日はオッサンが演者?』
最初にやってきたのは昨日、達治たちを見守ったリスナーだった。
彼らは自分たちの指摘を素直に受け入れた彼を見て、ホッと胸を撫で下ろす。これで下手なこと、いわゆる放送事故は起こらないだろう。
そう思ったが、しばらく経ってリスナーたちは困惑し始めた。
『なぁ、オッサンが手に持ってるのってさ』
『俺も思った』
『初見だけど、どういうこと……?』
『いや、マジでそれで行くのか』
そして、画面越しに皆が一様にこう思うのだ。
「(用意した武器って……鍬一本かよ!?)」――と。
◆
「……さて、昨日と同じくらいの場所に到着したけど」
「モンスターさん、出てこないねー」
配信開始してしばらく、俺は慎重にダンジョンを探索していた。
しかし、それもあってかハプニングらしいハプニングは起こらない。これは撮れ高も期待できないかもしれないな、と考えて、ひとまず涼子と雑談することにした。
「そういえば、リョウ? 昨日はよく眠れたか」
「うん、快眠だったよ!!」
「そうかー……」
――以上、終了。
カメラを片手ににこやかに笑う従兄妹に、俺は思わず苦笑いした。こいつはきっと、配信しているという事実を完全に忘れている。そして日常会話をするレベルで、話題を広げるという意識を持ち合わせていなかった。
こちらのトークスキルも低いので、これでは視聴者もさぞ退屈だろう。
そう考えて、俺は思い切った行動をとることにした。
「ちょっと、大きな音を立ててみるか」
それというのも、モンスターを誘き寄せるためのもの。
俺は手頃な場所にあった小石を手にして、暗がりに向かって放り投げた。すると、カランカラン、という小気味の良い音がダンジョン内に響き渡る。
どこまでそれが広がったのか、効果はすぐに目に見える結果となった。
「お、きたきた……!!」
【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
昨日と同じ叫びが、周囲に響き渡って。
「今日は武器もあるからな! かかってこい!!」
姿を現したのは、漫画の中でしか見たことのない幻想の生物。
――身の丈二メートル以上の、ドラゴンだった。
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