3.胸のざわめきと、気配。








「あ、危なかったね! モンスターって、本当にいるんだ!!」

「そう、だな! マジでビックリした……!」




 ――ダンジョンを飛び出して、山林のど真ん中。

 俺と涼子は大きく肩で息をしながら、時空の歪みを見つめていた。モンスターはダンジョン内においてのみ生息できるので、外に出てくる心配はない。

 それでもまだ、心臓はとかく速く脈打っていた。

 この高揚感は息が上がったことでの一時的なものか、それとも……。



「……あ! そうだ、たっちゃん! 配信は!?」

「そうだった! ……って、とっくに切れてるな」

「そっかー……みんなにモンスター見せられなくて、残念だね」



 そう考えながらも配信画面を確認すると、そこにはあったのは心配のコメント。

 どうやら初配信は、多くの人に不安を与えてしまったようだ。俺はひとまず代表して、無事の報告をコメントとして残すことにした。

 するとすぐに、視聴者からの返信がくる。



『初見だった者です。とても安心しました、良かったです』

『でも普通、武器も持たずに女の子を前線に行かせるってあり得る?』

『次回までの反省点にしてもらうとして、チャンネル登録しておきます!!』



 それらは、本当に心の底からの安堵だったのだろう。

 今回きてくれた視聴者はみな、優しくチャンネル登録をしてくれた。それと同時に、無知な俺たちにアドバイスを送ってくれる人も。

 涼子と一緒にそれを確認して、今日のところは解散となるのだった。







「……そっか。武器が必要、か」



 そうして実家に戻り、俺は自室でボンヤリと昼のことを考える。

 武器を持たない女性を前線に置くな、というのは至極もっともな意見だった。それとなると、今後の演者は男性である俺ということになる。

 しかし、いったいどのようにすれば映える絵になるだろうか。

 それを考えてしばらく、俺はおもむろに立ち上がって庭にある倉庫を漁り始めた。



「んー……と? この中で、使い慣れてる武器といえば、やっぱこれか」



 そして、ある得物を見て一人で納得する。

 これならきっと、次回からはうまくいくだろう。



「……って、ずいぶん真剣に考えちまったな」



 そこまで考えて俺は、自分がダンジョン配信に心惹かれていると気付いた。

 だが、仕方のない話だろう。男子たるもの、心はいつまでも少年なのだから。非日常の中に身を置くと、どうにも気分が高揚してしまうものだった。

 そんなわけで、俺は次のための準備をして寝床に就く。



「しかし、今日は疲れたな……」



 身体を横たえると、身体がドッと重くなる。

 しかし、どうにも目は冴えてしまって、上手く寝られないのだった。









 ――一方その頃、某匿名掲示板では。



『今日からダンジョン配信始めた二人組なんだけどさ、見た人いる?』

『あー……なんか、片田舎のダンジョン、ってやつだっけ』

『そうそう。あんな田舎にダンジョンあったんだ、ってなってアーカイブ見たよ』



 ダンジョン配信初心者二人組――達治と涼子の話題が、それとなく持ち上がっていた。しかしどれも物珍しさというか、辺境の地にできたダンジョンへの興味が大きい。

 配信の質というより、新しい刺激を欲している、という感覚が近いだろう。

 住人たちはみな一様に、こう思っていた。



『まぁ、暇だったら見に行ってみるか』――と。




 それは本当に、何の気なしの好奇心。

 しかし達治や涼子を含め、この時は誰も思っていなかった。




 次回の配信が、いきなりの『神回』になる、ということを……。



 

――――

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