2.初配信は不器用に。








「えーっと……それじゃ、配信を始めるぞ?」

「う、うん!」



 ――そんなこんなで、翌日。

 俺と涼子は、ダンジョンの前にやってきていた。それは鬱蒼とした山林の中に、ポツンと存在している。空間の歪みというものらしいが、実際に見てみると不思議な感じだった。

 揺れている木々の隙間に手を触れると、どこか別の場所に繋がるらしい。

 涼子と俺は互いに顔を見合わせ、改めて頷いた。

 そして、



「配信開始!」

「え、えーっと! ども、初めまして!! アタシの名前はリョウです!!」

「まだ同接ゼロ人だっての……」



 いよいよ運命の配信開始、となった。

 ひとまずカメラでの撮影担当は俺、少しでも映えるように演者は涼子。どこかぎこちなく話す従兄妹に、俺は苦笑いしつつスマホで配信画面を確認した。

 電波状況こそ悪いが、配信はできているらしい。

 それに――。



「あ、やっぱり人気ジャンルなんだな。もう五人も見てるよ」



 視聴人数に『5』という数字が表示されていた。

 そして、ポツポツとコメントもある。



『初見です!』

『新しいダンジョン配信?』

『お、配信者美人じゃね』



 最後のコメントの意味は分からないが、興味は引けている様子だった。

 これはリスナー獲得のため、早々にダンジョンへ突入するべきだ。そう考えて涼子に頷き、一緒に中に入ることにしたのだった。







「わぁ、凄い!? ここって、本当にダンジョンなんですね!!」



 中に足を踏み入れるとそこは、先ほどの森林とは打って変わって洞窟となっていた。うららかな春の陽気はどこへやら、ここはどことなく寒々としている。

 少しばかりの緊張もあるが、俺はゆっくりと周囲の映像を撮った。

 そして最後に、先頭を進む涼子を画角に収める。



「意外と一本道というか、どことなく風情がありますね……!」

「いや、意味分からんリポートするなよ」

「あ、ごめんね!」



 すると彼女が素っ頓狂な発言をするので、思わずツッコんでしまった。

 その頃、コメント欄は――。



『今の声、撮影者?』

『なんだよ男かよ』

『リョウちゃんに謝らせるな!!』



 若干、荒れていた……。

 どうにも配信というのは難しい。

 俺は内心で苦笑いしつつ、気を引き締めた。



「……えーっと、ですね? 今回の配信はお試しなので、本当に短い時間になってはしまうんですけど、よろしくお願いしますね!」

『はーい!』

『分かったよ、リョウちゃん!』



 そして改めて、今回の配信について説明をさせる。

 充電の残量も少ないので、もうそろそろ配信も終了して――。



「ん……?」



 そう考えていると、奥から何かの叫びが聞こえてきた。

 人のそれでは、断じてあり得ない。


 これがいわゆる、モンスターというものか!?




「うわぁ、すごい! なんだろう!」

「あ、リョウ! 待て、そろそろ一回配信を閉じないと――」




 ――と、俺が声をかけようとした時だった。





【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】






 けたたましい叫びが、再びダンジョン内に木霊して……。











 ――配信が、途切れた。



『え、マジで終わった?』

『ていうか、今の声ってドラゴンじゃね?』

『ドラゴンって、ヤバくね』

『片田舎のダンジョン、ってタイトルだったけど』

『もしかして、これ放送事故なんじゃね……?』



 コメント欄には、困惑の色が浮かんで。

 そして、視聴者の誰もがこう思うのだった。




「(これって本当に、警察案件なのでは……?)」――と。




 

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