1.配信準備完了。
「へー……ここにも、ようやくダンジョンができたのかー」
「そうそう、そうなんだよ! もうね、これでココも大都会!」
「いや、それはない」
「えぇー!?」
実家までのノンビリとした道中。
涼子は地元で起きた珍しい出来事を語ってくれた。そしてその内容というのは思った以上に衝撃を受けるもので、俺は思わず感心したような声を発してしまう。
まさかスーパーより先に、ダンジョンの方が自然発生するとは。
我が故郷ながら、あまりに秘境すぎる。
「ふーん、それにしてもダンジョンか」
いま、都心では至るところにダンジョンが発生していた。
安全なものから危険なものまで、種類は様々。中には安全性を考慮した上で、ダンジョンの中で配信を行う者もいるという。彼らのような配信者はいまや一般的な存在となっており、仕事に忙殺されていた俺でも概要くらいは知っていた。
だから一度、実家の手伝いの合間に見に行ってみようと考えた時だ。
「たっちゃんは、配信とか興味ないの?」
「え、配信だって……?」
涼子が何の気なしに、そんなことを言ったのは。
俺は少しばかりの好奇心を見透かされたと勘違いし、思わず声を上擦らせてしまった。すると従兄妹は何を思ったのか、嬉々としてこう言うのだ。
「実はウチに配信機材だけあってさ! でも、使い方分からなくて! だけど、たっちゃんは昔からこういう機械に強かったでしょ!?」
「……あー、そういう」
つまるところ、彼女も彼女で配信というものをしてみたい、ということらしい。というか、このネット回線が壊滅的な弱点である田舎で、なぜ機材を揃えてしまったのか。
思いついたら、考えるより先に行動。
従兄妹らしいといえばらしいが、俺はつい呆れてしまうのだった。
「それでさ、良かったら配信機材を見てほしいんだけど……」
「あー、分かったから。また、後でな?」
「わーい! ありがと!!」
「………………」
子供のような無邪気さで喜ぶ涼子。
今年で二十三歳というのに、その姿はさながら女子高生のようだった。
俺はそんな彼女にまた呆れつつも、しかし少し考える。退屈だけだと思っていた故郷での暮らしだが、これはもしかすると案外楽しくなるかもしれない、と。
そう考えて、俺は微かに胸を躍らせるのだった。
◆
「あぁ、これなら簡単に準備できるか。どれも基本的なものばかりだし」
「ホント!? だったら、明日には行けるかな!!」
「あー、でも映像はそこまで良くないぞ?」
畳の部屋に似つかわしくない配信機材と睨めっこしつつ、俺はそう答える。
たしかに最低限の配信に必要なものは揃っていた。しかしこれだと、配信できても三十分が限度というところだろう。もっとも、そこまでマジでやるわけではないので、構わないが。
それに涼子の方は、驚くほどにやる気満々だった。
故郷が好きとはいうが、やはり刺激のない日々は堪えるのだろう。
「映像は後々に改善すれば大丈夫だよ!!」
「バーカ、機材が高いんだよ!」
俺はそんな従兄妹をあしらいながら、簡単に配信の設定を行ってみた。
手元にあるカメラから映像を取り込めば、自然ともう一つの機材に映像が送られる。それが配信サイトを通して世界中に届けられる、という感じだった。
配信アカウントも取得できたし、あとは実際にやってみるだけだ。
「あれれ、たっちゃんも案外乗り気だったりする?」
「うるさいな、悪いかよ……」
「ううん! 一緒に頑張ろうね!!」
「…………」
正直なところ、俺も配信には興味がある。
だから、涼子の笑顔に自然と頬がほころぶのを感じるのだった。
明日は時間もあるし、ひとまず試しにダンジョンへ行ってみよう。
そう考えながら、その日はゆっくりと休むのだった。
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