1.配信準備完了。








「へー……ここにも、ようやくダンジョンができたのかー」

「そうそう、そうなんだよ! もうね、これでココも大都会!」

「いや、それはない」

「えぇー!?」



 実家までのノンビリとした道中。

 涼子は地元で起きた珍しい出来事を語ってくれた。そしてその内容というのは思った以上に衝撃を受けるもので、俺は思わず感心したような声を発してしまう。

 まさかスーパーより先に、ダンジョンの方が自然発生するとは。

 我が故郷ながら、あまりに秘境すぎる。



「ふーん、それにしてもダンジョンか」



 いま、都心では至るところにダンジョンが発生していた。

 安全なものから危険なものまで、種類は様々。中には安全性を考慮した上で、ダンジョンの中で配信を行う者もいるという。彼らのような配信者はいまや一般的な存在となっており、仕事に忙殺されていた俺でも概要くらいは知っていた。

 だから一度、実家の手伝いの合間に見に行ってみようと考えた時だ。



「たっちゃんは、配信とか興味ないの?」

「え、配信だって……?」



 涼子が何の気なしに、そんなことを言ったのは。

 俺は少しばかりの好奇心を見透かされたと勘違いし、思わず声を上擦らせてしまった。すると従兄妹は何を思ったのか、嬉々としてこう言うのだ。



「実はウチに配信機材だけあってさ! でも、使い方分からなくて! だけど、たっちゃんは昔からこういう機械に強かったでしょ!?」

「……あー、そういう」



 つまるところ、彼女も彼女で配信というものをしてみたい、ということらしい。というか、このネット回線が壊滅的な弱点である田舎で、なぜ機材を揃えてしまったのか。

 思いついたら、考えるより先に行動。

 従兄妹らしいといえばらしいが、俺はつい呆れてしまうのだった。



「それでさ、良かったら配信機材を見てほしいんだけど……」

「あー、分かったから。また、後でな?」

「わーい! ありがと!!」

「………………」



 子供のような無邪気さで喜ぶ涼子。

 今年で二十三歳というのに、その姿はさながら女子高生のようだった。

 俺はそんな彼女にまた呆れつつも、しかし少し考える。退屈だけだと思っていた故郷での暮らしだが、これはもしかすると案外楽しくなるかもしれない、と。


 そう考えて、俺は微かに胸を躍らせるのだった。







「あぁ、これなら簡単に準備できるか。どれも基本的なものばかりだし」

「ホント!? だったら、明日には行けるかな!!」

「あー、でも映像はそこまで良くないぞ?」



 畳の部屋に似つかわしくない配信機材と睨めっこしつつ、俺はそう答える。

 たしかに最低限の配信に必要なものは揃っていた。しかしこれだと、配信できても三十分が限度というところだろう。もっとも、そこまでマジでやるわけではないので、構わないが。

 それに涼子の方は、驚くほどにやる気満々だった。

 故郷が好きとはいうが、やはり刺激のない日々は堪えるのだろう。



「映像は後々に改善すれば大丈夫だよ!!」

「バーカ、機材が高いんだよ!」



 俺はそんな従兄妹をあしらいながら、簡単に配信の設定を行ってみた。

 手元にあるカメラから映像を取り込めば、自然ともう一つの機材に映像が送られる。それが配信サイトを通して世界中に届けられる、という感じだった。

 配信アカウントも取得できたし、あとは実際にやってみるだけだ。



「あれれ、たっちゃんも案外乗り気だったりする?」

「うるさいな、悪いかよ……」

「ううん! 一緒に頑張ろうね!!」

「…………」



 正直なところ、俺も配信には興味がある。

 だから、涼子の笑顔に自然と頬がほころぶのを感じるのだった。




 

 明日は時間もあるし、ひとまず試しにダンジョンへ行ってみよう。

 そう考えながら、その日はゆっくりと休むのだった。



 

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