リストラされて片田舎に帰ってきたオッサン、秘境のダンジョン配信者とやらをやってみる。~未経験だから知らなかったけど、どうやら『超高難易度』な場所らしいです~
あざね
オープニング
プロローグ 春、七年振りの故郷。
「あー……ここは空気が澄んでるな、やっぱり」
俺は寂れた駅の前で、無表情のままそう呟いた。
周囲には、自分以外に人の気配はない。見渡す限りの田んぼと、果てまで続くような長い農道があって、たまに軽トラが走っているだけだった。とある県の山沿いにある俺の故郷は、いわゆる片田舎と呼ばれる場所である。
名産品もこれといってなく、俺が子供の頃はネット回線だって中途半端だった。
いまはそれなりにマシ、という感じらしいが……。
「しかし、迎えの車はまだか……? 別に急いでないけど」
雲一つない大空を仰ぎながら、俺は大きくため息をついた。
そう、俺はいま少しも急いでいない。何故なら仕事でこの土地を訪れたとかでもなく、完全に職を失って戻ってきただけなのだから。しばらくは実家の手伝いをしつつ、次の仕事を探すことになっていた。
そんな感じで、親戚の車を待ちつつ。
ボロボロのベンチに腰かけて、俺は物思いに耽るのだった。
「まったく、なんで俺がリストラされなきゃいけないんだ……?」
そして思わず、前職の上司からの扱いを愚痴ってしまう。
都心の小さな会社で働いていたのだが、その上司というのが最悪だった。社長の息子ということだったが、俺の成果を自分のものにして、不手際を俺のせいにしていたとのこと。それを知ったのはクビを言い渡される数日前で、周囲の同情の目もとかく痛かった。
しかし、その馬鹿上司の嘘を見抜けなかった自分も自分、というやつか。
いっそ失業した方が清々する、というレベルだった。
「ただまぁ、俺がいなくなってすぐに潰れたのは笑えたけど」
当然な話だが、人員数名程度の中小企業で主力の喪失は死活問題。
俺をクビにしてから一ヶ月と少し、その会社がものの見事に倒産したのを聞いたのは平日のハローワークでのことだった。これにはさすがに、ざまぁ、としか言いようがない。
だが、こちらはこちらで問題は山積みだ。
実家や親戚を頼れるのも、長く見積もって一年弱だろう。
「それまでに、何かしらの成果を出さないといけない、か」
そんなことを考えもう一度、青一色の空を見上げた。
小鳥が視界を横切って、風が吹き抜ける。
すると、そんな抜け殻に近い俺を呼ぶ声がした。
「おーい、たっちゃーん!!」――と。
それに反応して、聞こえた方に視線をやる。
すると、そこに立っていたのは程よく肌を焦がした若い女性だ。色気のない服を適当に着てきたのだろう短い黒髪の彼女は、車を降りると小走りで俺のもとにやってくる。
そして、コロコロと笑いながら言うのだった。
「いや、ごめんね! 道が混んでてさ!!」
「嘘つけ。この土地で一番通用しない言い訳をするな」
「うわー! 本当だ! あははっ!!」
――などと、軽い冗談を口にする彼女の名前は榎田涼子。
俺の母方の従兄妹であり、この土地に残って実家の農業を手伝っている。いまも作業をしてきたところなのだろう、白のシャツは汗を吸って肌の色が薄らと見えていた。
もっとも色気がまったくないので、目の保養にもならないけど。
「それじゃ、さっさと行こうか! みんな待ってるから!」
「あー、そうだな」
そんなこんなで、俺は荷物を車に押し込んだ。
そして助手席に乗り込むと、今どき珍しいマニュアル車が動き始める。
涼子の鼻歌交じりの運転に身を預けながら。
俺――近衛達治は、ボンヤリとまた空を見るのだった。
――――
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